第206回 素晴らしいリーダーに出会ったときに思い出す詩
素晴らしいリーダーの要素って何でしょう。
チームという森全体を見ながら、それを構成するひとりひとりという木も公平に見ていて、仕事への情熱とエネルギーで、チームを引っ張る。
そんなリーダー像を考えずにはいられない詩があります。その名も『俺は唄う』という詩なのですが、リーダー像とどんな関係があるのか、まあ読んでみてください。
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One’s-Self I Sing
Walt Whitman
One’s-Self I sing, a simple separate person,
Yet utter the word Democratic, the word En-Masse.
Of physiology from top to toe I sing,
Not physiognomy alone nor brain alone is worthy for the Muse,
I say the Form complete is worthier far,
The Female equally with the Male I sing.
Of Life immense in passion, pulse, and power,
Cheerful, for freest action form’d under the laws divine,
The Modern Man I sing.
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俺は唄う
ウォルト・ホイットマン
俺は唄う ひとりひとりの人間を
だが 俺の口をついて出るのは みんなだ 人間全体だ
頭のてっぺんからつま先まで からだを俺は唄う
顔や脳みそだけじゃ詩は作れない
人間のまるごと全部こそ価値があると言おう
女だろうと男だろうと同じように 俺は唄う
情熱と刺激とエネルギーに満ち満ちた命を
神の摂理はある そこに生きる快活で自由な
新しい時代の人間を 俺は唄う
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人への愛と、溢れんばかりの情熱がほとばしってますねえ。
詩を通して唄われているのは、「個」と「全体」。
Of physiology from top to toe I sing,
Not physiognomy alone nor brain alone is worthy for the Muse,
I say the Form complete is worthier far,
The Female equally with the Male I sing.
頭のてっぺんからつま先まで からだを俺は唄う
顔や脳みそだけじゃ詩は作れない
人間のまるごと全部こそ価値があると言おう
女だろうと男だろうと同じように 俺は唄う
「ひとりひとり」と「みんな」、「頭のてっぺん」から「つま先」まで、「顔や脳みそ」と「からだ」という対比はすべて、社会や身体といった「全体」と、それを構成する「個」というパーツの対比になっています。
つまり、ひとりひとりを大事するのは、それが作り上げる集団全体を大事に思うからで、また、集団全体を大事にするのは、ひいてはそれを構成する個人を大事にすることになるから。
ひとりだけじゃ何も生み出せないし、全体だけを考えていても個人は力を発揮できない。これは、組織やチームスポーツを考えるときの普遍的な理ですね。
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しかし、こうした理屈だけでは、人は動きません。
Of Life immense in passion, pulse, and power,
Cheerful, for freest action form’d under the laws divine,
The Modern Man I sing.
情熱と刺激とエネルギーに満ち満ちた命を
神の摂理はある そこに生きる快活で自由な
新しい時代の人間を 俺は唄う
情熱と刺激とエネルギーと快活さと自由がなければ、人は動きません。理と情を兼ね備えた数々の素晴らしいリーダーが、歴史上に、今の時代に、存在します。
この詩が書かれたのは、19世半ばのアメリカ。イギリスからの独立を果たし、新たに国というものを作り上げていく中で、南北戦争という内戦を経験していく時代です。
独立したひとりの人間として生きるという気概と同時に、それが作り上げる社会を成り立たせているすべての人へのリスペクトに溢れた詩になっていますよね。
リーダーと言わず、すべの人がこういう視点で個人や社会を見るようになったら、世の中はどんな風になるのだろうかと考えてしまいます。
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今回の訳のポイント
人間への愛とリスペクトに溢れ、「個」と「全体」を描いたこの詩。最大の難関は、2行目にあります。
One’s-Self I sing, a simple separate person,
Yet utter the word Democratic, the word En-Masse.
俺は唄う ひとりひとりの人間を
だが 俺の口をついて出るのは みんなだ 人間全体だ
フランス語由来のEn-Masse「皆一緒に」という言葉はいいとして、難しいのはDemocraticという言葉です。「民主的」という辞書的な訳語をもってきても意味がありません。
「民主的」という言葉が指す定義と実態については置いておくとして、この詩で歌われているのは、「個」と「全体」であり、権威主義的な指導者個人でも一部のエリートでもない人々を、この言葉は指しています。
そう、そういう人たちを指して、口をついて出る言葉は「みんな」ですよね!
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