ENGLISH LEARNING

第202回 流れ星を見たときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

流れ星。

空を見上げ、流れる星を探していると、「わー!」と聞こえたのでそちらを見ると、もうどこかへ行ってしまう。また、「あっ!」というのでそちらを見ると、また消えてしまっている。

そんな風にして、空を翔けて一瞬で消えてしまう流れ星を見たときに思い出す詩があります。

*****

Compensation
Sara Teasdale

I should be glad of loneliness
And hours that go on broken wings,
A thirsty body, a tired heart
And the unchanging ache of things,
If I could make a single song
As lovely and as full of light,
As hushed and brief as a falling star
On a winter night.

*****

コンペンセーション
サラ・ティーズデイル

孤独でよかったと思える
ずっと翼は破れたままで
身体は乾き 心は重たいままで
あれこれの変わらぬ痛みを抱えたままで
もし歌のひとつでも作れたら
光に満ちた素敵な歌を
流れ星のように静かで短い歌を
冬の夜空を翔ける流れ星のように

*****

「孤独で良かったと思える」という刺激的な1行で始まり、「冬の夜空」というロマンチックなイメージで幕を閉じるこの詩。

この詩を深く味わうために、とある英語の文法に、まず触れなければいけないんです。

それは、I should be… if I could〜. 「もし〜できたら、…するのに。」という仮定のフレーズです。「のに。」ということは、言い換えると、「〜できないので…できない」ということに!

つまり、「流れ星のような歌を作れたら、孤独で良かったと思えるのに」=「流れ星のような歌は作れないので、孤独で良かったとは思えない」ということになります。

そうすると、ロマンチックに思えた詩が、実はかなり重たい詩に思えてきます。

*****

流れ星のような歌を作ることはできないので、「ずっと翼は破れたままで」「身体は乾き 心は重たいままで」「あれこれの変わらぬ痛みを抱えたままで」いるしかないということになるなんて!

流れ星のような歌とは、どんな歌かというと、「光に満ちた素敵な歌」で「流れ星のように静かで短い歌」だと。

それって、重くて苦しい日々の中で見つけた、一瞬のきらめきのような幸せな瞬間のことなんだと。

*****

幸せって、声高に叫び主張するものでなくて、夜空に流れ星を探すように、いつも探し求めているものなのに、静かに訪れるものだから、よそ見していて見逃してしまったり、一瞬のこと過ぎて、記憶に刻む暇もなく通り過ぎてしまったり。

逆に言えば、静かに一瞬で通り過ぎる幸せな瞬間を、この目に焼きつけることができれば、身体や心の重たさや痛みも孤独も、まあいいかと思えるのだと!

というわけで、やっぱりロマンチックな詩でした!

*****

今回の訳のポイント

この詩の最大の難関はタイトルです。

Compensationとは、「損失の埋め合わせとして与えられる金銭」であったり、心理学的には「肉体的、精神的に劣等感を感じるときにそれを別のことで埋め合わせようとすること」であったりします。

満たされない心を何か別のもので埋め合わせをしようとする。つまり、表に現れている行動や言葉は、その満たされなさや劣等感の現れなのだ。そう思って見ると、人をより深く理解できるときがあります。

Compensationというひとつの単語から、英語ではそういったことを連想してします。

この詩では、幸せな瞬間が苦しみの埋め合わせになると読み取ることもできますが、「埋め合わせ」や「補償」という言葉の響きが強すぎて、タイトルにしてしまうと、かえって雰囲気を壊してしまうように思います。

あるひとつの世界観を感じさせながら、様々な捉え方ができるように開かれている。確かさと謎めいた雰囲気を同居させる、もっとも安直だけど、もっとも効果的な方法が日本語にはあります。

そう、カタカナで、コンペンセーション!

「光に満ちた素敵な歌」で「流れ星のように静かで短い歌」のタイトルにぴったりだと思いませんか。

 

【英語力をアップさせたい方!無料カウンセリング実施中】
これまで1700社以上のグローバル企業に通訳・翻訳・英語教育といった語学サービスを提供してきた経験から開発した、1ヶ月の超短期集中ビジネス英語プログラム『One Month Program』
カウンセリングからレッスンまですべてオンラインで行います。
One Month Program

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END