第199回 1年の抱負を聞かれたときに思い出す詩
抱負。
実り多き1年にしようと、決意や目標を心に抱く。
自分は何をしたいのか、どんな人間になりたいのか。そんなことに思いを巡らせていると、彫刻家を描いた詩を思い出します。
抱負と彫刻家にどんな関係があるのか、まあ読んでみてください。
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A Sculptor
Ella Wheeler Wilcox
As the ambitious sculptor, tireless, lifts
Chisel and hammer to the block at hand,
Before my half-formed character I stand
And ply the shining tools of mental gifts.
I’ll cut away a huge, unsightly side
Of selfishness, and smooth to curves of grace
The angles of ill-temper.
And no trace
Shall my sure hammer leave of silly pride.
Chip after chip must fall from vain desires,
And the sharp corners of my discontent
Be rounded into symmetry, and lent
Great harmony by faith that never tires.
Unfinished still, I must toil on and on,
Till the pale critic, Death, shall say, “‘Tis done.”
*****
彫刻家
エラ・ウィーラー・ウィルコックス
野心あふれる彫刻家として
ノミとハンマーを石の塊に休みなく振り下ろす
半人前のわたし自身に向き合い わたしは立つ
与えられた道具は心と頭 せっせと働かせ
大きいけれど見えにくいわがままな自分を削り
丸く丸く落ち着きを得て
ふて腐ったいびつな自分を丸めていく
コツコツとハンマーを打ち下ろし
くだらない自尊心の痕跡も残らぬように
ひとかけらごとに しょうもない欲を削り落とし
不満という刺々しい角を
丸く丸く削っていき 均整を得て
調和を得られるように 揺るがぬ信念で
完成はまだだから ひたすら続けるのみ
血の気のない批評家 そう 死が
「ご苦労様でした」とわたしに告げるまで
*****
彫刻家が向き合う石は、まだ半人前の自分自身といういびつな石。未熟で、でこぼこの心の刺々しい角を、ひたすらに丸めていく。
そして、自分という作品の完成は、死という人生の終わりとともに告げられる。
誠実かつ厳粛なメッセージ、心に響きますねえ。
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As the ambitious sculptor, tireless, lifts
Chisel and hammer to the block at hand,
Before my half-formed character I stand
野心あふれる彫刻家として
ノミとハンマーを石の塊に休みなく振り下ろす
半人前のわたし自身に向き合い わたしは立つ
私たちは一生をかけて自分という作品を作り上げようとする。この大前提がいいですよね。
人間は、ごろっとしたただの石として人生を始めて、夢や希望やら目標やらを胸に、自らを形作っていく。鏡に映る自分の姿のような石を、望む形に削っていくのは自分自身。その意味で、私たちはみな彫刻家であると。
I’ll cut away a huge, unsightly side
Of selfishness, and smooth to curves of grace
The angles of ill-temper.
And no trace
Shall my sure hammer leave of silly pride.
大きいけれど見えにくいわがままな自分を削り
丸く丸く落ち着きを得て
ふて腐ったいびつな自分を丸めていく
コツコツとハンマーを打ち下ろし
くだらない自尊心の痕跡も残らぬように
この5行には、心をえぐられますねえ。
わがままな自分は、自分には見えにくいけれど、他人の目にははっきりと醜く映っている。ふて腐った自分のいびつさや刺々しさを、彫刻家である自分はコツコツと丸めていく。
そして、ドキッとするのが、silly pride「くだらない自尊心」というひと言。人間として丸くなっていっても、どこか醜さが残ってしまうのは、silly pride「くだらない自尊心」があるからなんですよね。
心のどこかで、人から良く見られたいという雑念があって、心にもないことを言ってみたり、自分を変えることができないままでいたり。
Chip after chip must fall from vain desires,
And the sharp corners of my discontent
Be rounded into symmetry, and lent
Great harmony by faith that never tires.
ひとかけらごとに しょうもない欲を削り落とし
不満という刺々しい角を
丸く丸く削っていき 均整を得て
調和を得られるように 揺るがぬ信念で
この4行も心に刺さりまくりますね。
「しょうもない欲」も「不満という刺々しい角」も、醜い自分の象徴。でも、それって、どこか自分の中で均衡が取れていないからなんですよね。
欲って言うけど、それは本当に自分が欲しいものなのだろうか、社会の中で生きる限り、思い通りに行かない不満は出てくるわけで、それをどうやって解消したらいいのだろうか。そういったことに対する自分なりの答えが出せないから、調和を見いだせず、ずっとゴツゴツしてしまう。
でも、彫刻家がひとかけらごとに形を整えていくように、私たちも一日一日を積み重ねていくしかない。そんな覚悟を胸に、自分に向き合っていきたいなと思います。
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今回の訳のポイント
彫刻家が石を削るように、一生をかけて私たちは自分という人間を形作っていく。そんな詩の中で、最も難しいのが最後の1行です。
Unfinished still, I must toil on and on,
Till the pale critic, Death, shall say, “‘Tis done.”
完成はまだだから ひたすら続けるのみ
血の気のない批評家 そう 死が
「ご苦労様でした」とわたしに告げるまで
“‘Tis done.” とは、「完成」「完了」「終了」を意味します。
「完成」と言えば、努力してきたことの成果ということに、「完了」と言うと、与えられたミッションをこなしたことに、「終了」と言うと、その先はもうないという響きに。
それら全てを言い表すひと言が、英語にはあるのに日本語にはない!死神に言われるとしても、何かいい言葉があるはず。
「できましたね」では、「完成」の意味しか伝わらないし、「終わりですね」「終わりましたね」では、「完了」「終了」の意味しか伝えられない。
これらの意味全てを含み、誰かが長い時間をかけて何かを終わらせたときにかける言葉が、ひとつありました!
そう、「ご苦労様でした」!
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