第194回 珍しい名前のひとに出会ったときに思い出す詩
名前。
人に初めて会ったときに、あいさつの次に交わすもの。
珍しい名前は、特に印象に残って忘れないもの。
でも、名前って、その人のほんの一部でしかないんですよね。
そんなことを考えていたら、ある詩を思い出しました!
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The Prisoner
Edna St. Vincent Millay
All right,
Go ahead!
What’s in a name?
I guess I’ll be locked into
As much as I’m locked out of!
*****
囚人
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ
わかったから
もういいよ
名前が何だっていうの?
わたしを閉じ込めるんだよね
開かれてるのに
*****
これは強烈な詩ですねえ。
All right,
Go ahead!
What’s in a name?
わかったから
もういいよ
名前が何だっていうの?
「名前でなく中身を見て!」という訴えが、このひと言に集約されていますよね。
珍しい名前に、人の目は行きがちなので、それが話題にされることが多くなるのですが、本人は内心うんざりしていることだってあるだろうと思います。
名前なんていうのは記号でしかなく、それを取り上げてあれこれ言ってみたところで本質的でない。
I guess I’ll be locked into
As much as I’m locked out of!
わたしを閉じ込めるんだよね
開かれてるのに
人生は可能性に満ちているはずなのに、周りの人は名前だけを見て、自分の世界を狭めてくる。名前や肩書といった認識の枠組みを、人はすぐ求めてしまうんですよね。
人はとかく肩書が好きです。
職業から役職まで肩書にあふれていますし、人を名前でなく「社長」などのポジションや「お父さん」という続柄で呼んだり。
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肩書というと、昔どこかで読んだある海外の本に、お気に入りのトホホな流れがあります。
正確には覚えていないのですが、こんな調子です。
「絵を描いている」と言うと、人からは「じゃあ画家なのね!」と言われ、「いや、イラストレーターです」
「文章を書いている」と言えば、「じゃあ小説家なのね!」と言われ、「いや、ジャーナリストです」
そのときの相手のちょっと残念そうな顔に、自分も何だか申し訳ない気持ちになるという、、、人って本当にいろいろな固定観念に囚われて、世界を自ら閉じめてしまうものなのだと。
そう考えると、この詩のタイトルが最高ですよね。
名前についての詩なのに、タイトルを「囚人」とする天才的なセンス!
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今回の訳のポイント
この詩のハイライトは、やはりこの一行です。
What’s in a name?
名前が何だっていうの?
「名前でなく私の中身を見て!」という訴えなのですが、ロマンチックな文学が好きな人は、このセリフを聞いて、とある名作が頭に思い浮かぶかもしれません。
そう!シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』です!
敵対関係にある名門の家同士。モンタギュー家のロミオと、キャピュレット家のジュリエット。ふたりの出会いから悲劇の死まで、わずか4日間。その短い時間に、青春を駆けぬけたふたり。
モンタギューとキャピュレットという敵対する家に生まれてしまっただけで、なぜ愛を成就することができないのか。
ジュリエットが「名前が何だっていうの?」という心の叫びを抑えきれなくなる、最もロマンチックで、最も切ない場面があります。
‘Tis but thy name that is my enemy;
Thou art thyself, though not a Montague.
What’s Montague? it is nor hand, nor foot,
Nor arm, nor face, nor any other part
Belonging to a man. O, be some other name!
What’s in a name? that which we call a rose
By any other name would smell as sweet.
貴方の名前。私の敵はそれだけ。
貴方は貴方。モンタギューでなくても。
モンタギューって何?手でも足でもないし、
腕でも、顔でもない。人の身体のどこでもない。
ああ、何か他の名前になって!
名前が何だって言うの?薔薇って呼ぶものは、
他の名前で呼んでも、香りは同じでしょ。
苦しむ若者の言葉がグサグサと心に刺さりますよね。
そして、何よりも驚愕するのは、『ロミオとジュリエット』が460年も前に書かれたという事実!
そして、さらに驚愕するのが、シェイクスピアの生涯は謎も多いとはいえ、定説では『ロミオとジュリエット』を書いたのは、シェイクスピアが30歳のころという事実!
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