第193回 大好きな人に会えないときに思い出す詩
大好きな人とは、いつも一緒にいたいものです。
ところが、遠距離だったり、病気だったり、戦争だったり、様々な事情で、人は離ればなれになってしまうことがあります。
つらく苦しい毎日だからこそ、会えたときの喜びは計り知れない。会えない日常と、会えたときの喜びを知る人には、涙なしで読めない詩があります。
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Interlude
Amy Lowell
When I have baked white cakes
And grated green almonds to spread on them;
When I have picked the green crowns from the strawberries
And piled them, cone-pointed, in a blue and yellow platter;
When I have smoothed the seam of the linen I have been working;
What then?
To-morrow it will be the same:
Cakes and strawberries,
And needles in and out of cloth
If the sun is beautiful on bricks and pewter,
How much more beautiful is the moon,
Slanting down the gauffered branches of a plum-tree;
The moon
Wavering across a bed of tulips;
The moon,
Still,
Upon your face.
You shine, Beloved,
You and the moon.
But which is the reflection?
The clock is striking eleven.
I think, when we have shut and barred the door,
The night will be dark
Outside.
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間奏曲
エイミー・ロウエル
ケーキを焼いて白いクリームを塗る
緑のアーモンドを砕いて散らす
イチゴの緑のへたを取る
青と黄色のお皿に積み重ねていく
リネンのほつれを直す
次は何だったかな
明日も同じだよ
ケーキにイチゴに
針仕事
煉瓦の壁や白い食器に差し込む陽の光が
美しいものだとしたら
月はもっとどれほど美しいって言えばいいのかな
プラムの木のひだのような枝の隙間を沈んでいく
月の光は
チューリップの上にゆらゆら浮かんで
月の光は
じっと
君の顔に落ちる
君の顔が輝く
月が君を照らすの?君が月を照らすの?
時計が23時を知らせる
ねえ ドアを閉めたら
暗い夜だね
外だけは
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ケーキを作ったり、リネンを繕ったりする日常と、君と過ごす夜の非日常感。詩の前半の日常風景と、後半の最高にロマンチックなふたりの時間というコントラストが美しいですよね。
クリームを塗ったり、アーモンドを砕いたり、イチゴのへたを取ったり、針を通したり抜いたり。これらはどれも繰り返される作業。日常とは、繰り返しの営みですよね。昨日も今日も明日も、概ね同じことをするからこそ、日常と呼ばれるわけです。
そんな日常に、差し込む光があります。
*****
The moon,
Still,
Upon your face.
You shine, Beloved,
You and the moon.
But which is the reflection?
月の光は
じっと
君の顔に落ちる
君の顔が輝く
月が君を照らすの?君が月を照らすの?
月の光が君の顔を照らすのか、それとも君自体が眩しく輝いているのか。今、ようやく会えた大切な君。
会えなかった時間が長かったから、ニコって微笑んでくれるだけで、眩しいくらいに輝いて見えるんですよね。
病室に入って行ったときに、ベッドからこちらに気づいてくれたときの微笑み。部屋でくつろぎながら隣にいる君が、ニコニコして話を聞いてくれるときのあたたかさ。
ああ、この幸せな時間を自分はずっと待っていたんだな。だから、日常を耐えられたんだな。そんな溢れんばかり思いを、ぐっと堪えて、身を寄せるんですよね。
The clock is striking eleven.
I think, when we have shut and barred the door,
The night will be dark
Outside.
時計が23時を知らせる
ねえ ドアを閉めたら
暗い夜だね
外だけは
自分にとっては、月よりも眩しい君だから、真っ暗な夜は外のだけの話。ふたり寄り添っている今だけは、光に満ちている。この瞬間がいつまでも続いてほしいと願いながら過ごす、ふたりだけの夜。
そんな夜に、大切な人の顔は月よりも眩しく輝いて見えるんですよね。
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今回の訳のポイント
幸せなような切ないような、愛の輝きを描いたこの詩。その最大のポイントは、何よりもタイトルです。
Interlude
間奏曲
音楽的に訳せば「間奏曲」ですが、この詩の展開の通り、日常と日常に挟まれた非日常的な瞬間を描く際にも使われます。ロマンチックな間奏曲とすれば、「逢いびき」や「逢瀬」と訳すこともできます。しかし、わたしたち人間の一生、愛の諸相を考えたとき、もっと多面的に捉えられる余地があるとも思います。
会えなかったふたりが、会えた。でも、やがてまたそれぞれの日常に戻らなければいけない。その事実が頭をかすめつつも、今この瞬間だけは、すべてを忘れて目の前の大切な人に寄り添っていたい。そんな月よりも眩しい瞬間が、誰の人生にもあるはずです。
それが、孤独な日常の、つかの間の、 Interlude「間奏曲」であったとしても。
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