第189回 泣きながら別れるときに思い出す詩
泣きながら別れることってありますよね。
別れなくてはいけない理由は様々。好きだけど別れなくてはいけない。別れたくないけど別れなくてはいけない。
そんな風にして、涙がこぼれそうなときに思い出す詩があります。
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The Heart’s House
Sara Teasdale
My heart is but a little house
With room for only three or four,
And it was filled before you knocked
Upon the door.
I longed to bid you come within,
I knew that I should love you well,
But if you came the rest must go
Elsewhere to dwell.
For you would never be content
With just a corner in my room,
Yea, if you came the rest must go
Into the gloom.
And so, farewell, O friend, my friend!
Nay, I could weep a little too,
But I shall only smile and say
Farewell to you.
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わたしの心ってちっぽけな家だから
サラ・ティーズデイル
わたしの心ってちっぽけな家だから
3人か4人くらい分の部屋しかないから
もういっぱいなの
君は心のドアをノックしてくれたけど
君にもこの心に入って来てほしかった
きっとうまく愛せるって分かってた
でも君が来れば
みんなどこかへ出ていかなきゃいけない
君って満足するってことがないでしょ
この心という部屋の片隅じゃ
君が来たら 他のみんなは
暗がりへ追いやられる
だから さようなら 大切な人
涙も こぼれるかもしれない
でも わたしは笑顔で言うね
さようなら
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こ、これは切なすぎて、涙なしには読めませんね!
自分には、小さな心がひとつあるだけ。すでにその心を占めている大切な人がいる。だから、君に出会えたのは幸せだけど、この心に居場所はないかもしれない。だから、さようなら。そう言うしかない。
これは、切ないですねえ。
My heart is but a little house
With room for only three or four,
And it was filled before you knocked
Upon the door.
わたしの心ってちっぽけな家だから
3人か4人くらい分の部屋しかないから
もういっぱいなの
君は心のドアをノックしてくれたけど
「君は心のドアをノックしてくれた」は、出会いの奇跡を描いた言葉としては、最高に美しいのではないでしょうか。
心のドアは、いつも開けっぱなしというわけにはいきません。そういう風にして閉じていたドアをノックしてくれた君。コンコンという音に、おそるおそるドアを開けてみたら、そこにいたのは素敵な君。
一生の友だちになれるかもしれないという確信を、その瞬間に感じる。しかし、人生にはタイミングというものがあって、思い通りにはいかないもの。
For you would never be content
With just a corner in my room,
Yea, if you came the rest must go
Into the gloom.
君って満足するってことがないでしょ
この心という部屋の片隅じゃ
君が来たら 他のみんなは
暗がりへ追いやられる
心の全部を占めることになりそうな君。だからこそ、心の片隅にいてもらうのは無理。すでに自分には大切な人がいて、君が入り込む余地はない。
And so, farewell, O friend, my friend!
Nay, I could weep a little too,
But I shall only smile and say
Farewell to you.
だから さようなら 大切な人
涙も こぼれるかもしれない
でも わたしは笑顔で言うね
さようなら
だから、別れを選ばざるを得ない。もっと早く出会っていれば、違う環境で出会っていれば。そんな思いを胸に、「さようなら」と言うしかない。
出会いの喜びと別れの残酷さを、こんなにもやさしく描かれてしまったら、笑顔でいようと思っても、涙が止まりませんよね。
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今回の訳のポイント
この詩の一行目が、意味においても訳においても、最重要です。
My heart is but a little house
わたしの心ってちっぽけな家だから
ここでのポイントは、but以外にありません。
そう、butは「しかし」だけでなく「以外」や「ほんの」という意味を持ちます。
では、a little houseは、「小さい家」でしょうか。これでは建築としてのサイズ感になってしまいますよね。「小さな家」であれば、主観的な響きがありますが、but「ほんの」というように卑下するようなトーンを加えたいなと。
素敵な人に出会えたのに、別れを選ぶしかないのは、自分の心の小ささのせいだと自分を責めるトーン。
そう、ちっぽけ!