第188回 ぬくもりが欲しいときに思い出す詩
ぬくもり。
それは、心も身体もぽかぽかするような安心感。
心に身体にからっ風が吹いて寒いとき、ぬくもりが欲しくなります。そんなとき、カモミールティーの詩を思い出します。
カモミールティーと聞くだけで、なんだかぽかぽかしてきますよね。どのくらいぽかぽかするか、まあ読んでみてください。
*****
Camomile Tea
Katherine Mansfield
Outside the sky is light with stars;
There’s a hollow roaring from the sea.
And, alas! for the little almond flowers,
The wind is shaking the almond tree.
How little I thought, a year ago,
In the horrible cottage upon the Lee
That he and I should be sitting so
And sipping a cup of camomile tea.
Light as feathers the witches fly,
The horn of the moon is plain to see;
By a firefly under a jonquil flower
A goblin toasts a bumble-bee.
We might be fifty, we might be five,
So snug, so compact, so wise are we!
Under the kitchen-table leg
My knee is pressing against his knee.
Our shutters are shut, the fire is low,
The tap is dripping peacefully;
The saucepan shadows on the wall
Are black and round and plain to see.
*****
カモミールティー
キャサリン・マンスフィールド
外は星明かりの空
海からは低く唸る波音
そう!それから アーモンドの小さな花
アーモンドの木を揺らす風
一年前には想像していなかった
島のみすぼらしい小屋で
ふたり腰を下ろして
カモミールティーをすするなんて
空飛ぶ魔女の羽のように浮かぶ
三日月の端がはっきりと見える
水仙の花の下を飛ぶ蛍
小鬼がハチと乾杯する
50歳にも 5歳にも思える
ぴったり寄り添うわたしたち
いい大人なんだけどね
キッチンテーブルの下で
ふたりの膝が触れあうのを感じる
雨戸は閉めた 火は弱くなった
蛇口からの滴 やさしい水音
壁に映る鍋の影
丸くはっきりと映る影
*****
島のみすぼらしい小屋の夜。空には星が瞬き、海は唸っている。そんな夜に、大切な人とふたり寄り添う。カモミールティーをすする。テーブルの下で互いの膝が触れる。
な、なんですか!この素敵すぎるぬくもりは!
How little I thought, a year ago,
In the horrible cottage upon the Lee
That he and I should be sitting so
And sipping a cup of camomile tea.
一年前には想像していなかった
島のみすぼらしい小屋で
彼とふたり腰を下ろして
カモミールティーをすするなんて
「一年前には想像していなかった」って、そうか、ふたりの距離がこんなに縮まったのは、最近のことなのか。
そんなふたりが小屋ですするのは、カモミールティー。身も心もぽかぽかになるのは間違いない!
We might be fifty, we might be five,
So snug, so compact, so wise are we!
Under the kitchen-table leg
My knee is pressing against his knee.
50歳にも 5歳にも思える
ぴったり寄り添うわたしたち
いい大人なんだけどね
キッチンテーブルの下で
ふたりの膝が触れあうのを感じる
お互いを分かりあえているという意味では50歳くらいの大人のようにも思えるけど、無邪気に寄り添う姿は5歳くらいの少年少女に見えるかもしれない。分別のあるいい大人だけど、ぬくもりは欲しい。
小さな小屋の小さなキッチンテーブル。その下で、ふたりの膝が触れあう。ぬくもりを確かめるように、私の膝を彼の膝に押しあてる。
こ、これは、最高にぬくもりを感じさせる情景じゃないですか!
Our shutters are shut, the fire is low,
The tap is dripping peacefully;
The saucepan shadows on the wall
Are black and round and plain to see.
雨戸は閉めた 火は弱くなった
蛇口からの滴 やさしい水音
壁に映る鍋の影
丸くはっきりと映る影
閉めた雨戸。弱まった火。蛇口から垂れる水。一日はもう終わり、夜が深まる。あとは、ふたりだけの夜がある。
そんなときに、壁にはっきりと映る生活道具の影。それは、はっきりと見える、具体的で確かなふたりの未来を象徴しているかのよう。
どうですか、この情景!これを表す言葉はひとつしかありません。
そう、ぬくもり!
*****
今回の訳のポイント
この詩で、ぬくもりを最も感じさせる一行。それこそが、最大の難関です。
My knee is pressing against his knee.
ふたりの膝が触れあうのを感じる
文字通りに訳せば、「私の膝は彼の膝に触れている」となりますが、ここでいつもの「彼・彼女」問題が発生します。日本語では、日常的に「彼・彼女」と人を呼ばないので、「彼の膝」と訳すと、日本語ではしっくりこないんですよね。
「ふたりの膝がふれあう」としてもいいですが、それだけだと俯瞰的にふたりを捉えるだけで、客観的すぎる。「私の膝」や「彼の膝」という主観的な響きは残したい。
というわけで、「ふたりの膝が触れあう」のを「感じる」とすれば、どうでしょう。客観的で俯瞰的な情景描写でなく、「ふたりの膝が触れあうのを感じる」という自分の主観的な感覚。
触れているのは膝だけど、身体の奥が、心の奥底が、じんわりと暖まるような感覚。
そう、それこそが、ぬくもり!
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