第186回 自由になりたいときに思い出す詩
自由。
何にも縛られることなく生きることができたら。自由な精神に翼を与えてのびのび生きられたら。
そんなロマンチックな思いに駆られたときに思い出す詩があります。
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A Vagabond Song
Bliss William Carman
There is something in the autumn that is native to my blood—
Touch of manner, hint of mood;
And my heart is like a rhyme,
With the yellow and the purple and the crimson keeping time.
The scarlet of the maples can shake me like a cry
Of bugles going by.
And my lonely spirit thrills
To see the frosty asters like a smoke upon the hills.
There is something in October sets the gypsy blood astir;
We must rise and follow her,
When from every hill of flame
She calls and calls each vagabond by name.
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自由の民の唄
ブリス・ウィリアム・カーマン
秋には特別な何かを感じるんだ
僕の血に流れる何かを
趣きか雰囲気か
僕の心は韻を踏むかのようで
黄色や紫や赤が時を刻む
紅葉の赤が僕を震わせる
鳴り響く喇叭のように
僕の孤独な魂が震える
霜の降りたアスターを目にするたび
丘に立ち昇る煙のように
10月には特別な何かを感じるんだ
僕の血に流れる自由の精神を騒がせる何かを
立ち上がってついていかねばなるまい!
炎のように染まる山々から
僕たち自由の民ひとりひとりの名前が呼ばれるから
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こ、これは、自由の精神を持つ者の心に響くアンセム!熱き思いがほとばしっていますね。
There is something in the autumn that is native to my blood—
秋には特別な何かを感じるんだ
僕の血に流れる何かを
この一行を読んだだけで、心の奥底が熱くなって、ここではないどこかへ行きたくなりませんか。
そういえば、ムーミン谷の物語を代表する自由の民スナフキンは秋になると、冬眠するムーミンたちとは別れ、ひとり旅に出ていましたね。
And my lonely spirit thrills
僕の孤独な魂が震える
群れから離れること、ひとりになること。それは決して暗い話ではなくて、色彩に溢れる山々の自然に分け入り、野山と自らの心の豊饒さを確かめる旅路!
しかし、「自由」という言葉の理解は、現代の私たちにとっては、あまりロマンチックではなく、非常に複雑なのも事実です。
「自分のことは自由に決めていいよ、自分の求めるものを自由に目指せばいい」とは言われますが、実のところ、それをできるだけの環境に、誰もが生まれつき恵まれてるわけではありません。それは自由じゃない。
自分が自由を追い求めた結果、周りの人との軋轢が生じたり、それによって自分が苦しむなら、それも自由じゃない。それが自由でないなら、自分の感情や欲望に左右されないようにすることで自由を得られるとも言える。
自由の民の秋の唄を考えていたのに、いつのまにか、カントをはじめとする哲学の細道に入って行ってしまいそうです。そうしていると、山々から秋の声が聞こえてきます。
There is something in October sets the gypsy blood astir;
We must rise and follow her,
When from every hill of flame
She calls and calls each vagabond by name.
10月には特別な何かを感じるんだ
僕の血に流れる自由の精神を騒がせる何かを
立ち上がってついていかねばなるまい!
炎のように染まる山々から
僕たち自由の民ひとりひとりの名前が呼ばれるから
これは、血が騒ぎ、心が震えますね。
思考や感情の世界に閉じこもってしまいそうなとき、秋がひとりひとりの名前を呼んでくれる。世界に心が開かれた自分。
「自由人」とラベル付けされる自分でなく、名前があるひとりの人間としての自分。
ラベル付けなしの、ひとりの人間として、誰かが自分を見てくれる。それだけで誰もが「自由の民」になれる気がします。
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今回の訳のポイント
今回の詩のポイントは、そのタイトルにある Vagabond です!
タイトルの Vagabond も Gypsy もどちらもカタカナで「バガボンド」「ジプシー」としてもいいのですが、呼称として適切かというのが今の時代にはあるので、少し抽象度を上げて日本語にしたいところです。
「制度や地理的制約を越えて、自由に生きる人たち」ということを、もう少しシンプルにロマンチックに訳すならば、「自由の民」と言えるのではないでしょうか!
そして、Vagabondと言えば、フランスの作家コレットの小説、 La Vagabonde に触れないわけにはいきません。
異性関係での喜びと苦しみを味わったことがある人の心にはグサグサくる言葉を残し、男女関係の機微を描く天才。そんな彼女の真骨頂とも言えるのが、La Vagabonde。
物語の冒頭、主人公の踊り子ルネの頭にこだまする言葉が、炎のように染まる山々のごとく、わたしたちを呼びます。
Pourquoi es-tu là, toute seule ? et pourquoi pas ailleurs ? …
そんなとこにどうして独りでいるの?どこか他のとこじゃなくていいの?
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