第175回 友だちが泣いたときに思い出す詩
友だちって、よく泣きますよね。
統計データみたいな根拠なんてないんですが、友だちってよく泣いてるなあと思うんです。
おいおいと泣く人の背中をさすっていると思い出す詩があります。
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Silence
Paul Laurence Dunbar
‘T is better to sit here beside the sea,
Here on the spray-kissed beach,
In silence, that between such friends as we
Is full of deepest speech.
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沈黙
ポール・ローレンス・ダンバー
こういう海のそばで腰を下ろすのがいいね
波のしぶきが口づけするこういう浜辺がいいね
黙っているとき 僕たち友だち同士
とてつもなく深い話をしているんだよね
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友だちとふたりで「海のそばで腰を下ろす」っていう情景がすでに、じ〜んときますよね。
‘T is better to sit here beside the sea,
Here on the spray-kissed beach,
こういう海のそばで腰を下ろすのがいいね
波のしぶきが口づけするこういう浜辺がいいね
ふたりでただ、ぼーっと海を眺めながら、波が寄せては返す様子を見ているときって、口数は減るんですが、その代わりに、濃密な時間が流れる気がします。
それで思ったんです。打ち寄せる波のように、激しい感情に襲われて泣いているときって、心の中には思いが溢れているけど、言葉なんて絞り出せなくて、それでまた涙が込み上げてしまうものだなと。
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In silence, that between such friends as we
Is full of deepest speech.
黙っているとき 僕たち友だち同士
とてつもなく深い話をしているんだよね
そういう風にして、言葉を発せずに、ただただおいおいと泣いてしまっている友だちが目の前にいるとき、こちらもあれこれしゃべる必要もないんですよね。
理由なんてどうでもよくって、まずはそばにいてあげること。肩を抱いてあげること。
傍から見たら、言葉は発していなくても、心の奥底や喉の奥には、言いたいことがいっぱいあって、でもそれを言葉にする必要もない。
友だちとしての時間の中で、そんな信頼関係を紡いできたのだから、「沈黙」していたって、いいんですよね!
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今回の訳のポイント
この詩の作者である、ポール・ローレンス・ダンバーは、19世紀末のアメリカで、全国的名声を得た最初のアフリカンアメリカンの詩人と言われています。
黒人の置かれた立場を歌った詩なども多く残し、33歳の若さでこの世を去ってしまった。
そんな背景もあるのですが、彼の詩人としての素晴らしさは、そういった背景情報を一切抜きにして、この4行をただ読むだけで、deepest speech「とてつもなく深い話」を感じさせるところです。
作品とそのコンテストをどこまで結び付けて考えるか。そんな議論を吹き飛ばしてしまうほどの圧倒的な4行。ザザーンと波が砕ける浜辺で、友だちと黙ってただ一緒にいることに、背景情報もコンテクストも要らないですよね。それと同じだなと思ったりします。
後ろから見たら、ただのふたりの人間ですが、ふたりの間には濃密な時間とストーリーがあって、それは他人に理解される必要もない。
涙の理由も、一緒にいる理由も、ふたりだけがわかっている。それでいいんですよね。
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