第173回 友だちから連絡があったときに思い出す詩
世の中の不思議のひとつに、忙しいときに限って、なぜか友だちからメッセージが来る、というのがあります。
そして、そんなことをしている暇はないのに、気づくとメッセージを返している。
友情の証とも言える、この小さな行為について考えると、思い出す詩があります。
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A Time To Talk
Robert Frost
When a friend calls to me from the road
And slows his horse to a meaning walk,
I don’t stand still and look around
On all the hills I haven’t hoed,
And shout from where I am, What is it?
No, not as there is a time to talk.
I thrust my hoe in the mellow ground,
Blade-end up and five feet tall,
And plod: I go up to the stone wall
For a friendly visit.
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今、話そう
ロバート・フロスト
友だちが道から声をかけてきて
馬の歩をゆるめる 何かあるのかなと
僕はただそこに突っ立って
まだ耕してない一面の畑を見て
ただ、「何?」なんて言うわけない
別に今話さなきゃいけないことじゃないんだけど
僕は耕すべき大地に ほっぽり投げる
でっかい鍬を 大地にぐさっと
そして 畑の石垣の方へゆっくり歩いて行く
友だちに会うために
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「友だちが声をかけてくれたら、自分のことを放り投げて、友だちと話をしに行く」というだけの詩ですが、自分のことよりも友だちのことを優先するという、友情の真髄が描かれています。
なにか大げさなことではなくて、ただ声をかけてくれたことに対して、広大な畑での自分の仕事をほっぽり投げるという思い切りの良さに、友だちとの熱き絆を感じますよね。
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When a friend calls to me from the road
And slows his horse to a meaning walk,
友だちが道から声をかけてきて
馬の歩をゆるめる 何かあるのかなと
馬というのが時代を感じますが、今よりももっとコミュニケーションがゆっくりだった時代。必死に畑仕事をしているところに、パカパカと馬に乗って通り過ぎようとした友だちが、自分に気づいて声をかけてくれた。
時代は違えど、必死に自分のことをしているときに、メッセージ通知が入って、、、というのと全く同じ展開!
考えることはひとつ。自分のことをほっぽりだして、「どしたのー?」と答えるかどうか。
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I don’t stand still and look around
On all the hills I haven’t hoed,
And shout from where I am, What is it?
僕はただそこに突っ立って
まだ耕してない一面の畑を見て
ただ、「何?」なんて言うわけない
広大な畑を、鍬ひとつで、ひとり耕している自分。
「おーい!」と友人に声をかけられて、まだやることがあるなあと、忙しさを匂わせて畑を見渡しはしないし、そこを動きもせずに、口だけで「何?」と言うのでもない。
これ、友情の真髄ですよね。
友だちからのメッセージって、一切躊躇なく返せるし、自分は忙しい感を匂わせるような「何?」なんて言わないんですよねえ。
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I thrust my hoe in the mellow ground,
Blade-end up and five feet tall,
僕は耕すべき大地に ほっぽり投げる
でっかい鍬を 大地にぐさっと
で、仕事の象徴である鍬なんて、ほっぽり投げることができる。同じように、別の作業なんてサクッと止めて、メッセージに返信しようとする。
その瞬間は、ごく自然に身体が動いて、逡巡することなんてないんですよね。理由なんてなくて、「友だちだから」としか言えないんですが、それこそが関係性を物語っていると言えますね。
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今回の訳のポイント
この詩の良さは、日常の情景を描写しているだけに見えて、気づくと、ひとつひとつの言葉がボディーブローのように、ドスンドスンと心に響いてきて、最終的にノックダウンされてしまうという、巧みさにあります。
・all the hills I haven’t hoed「まだ耕していない一面の畑」
・I thrust my hoe「鍬を放り投げる」
・And plod: I go up to the stone wall「そして 畑の石垣の方へゆっくり歩いて行く」
イギリスの田園風景になじみがあれば、この規模感がわかるかと思います。
うねるような丘に広がる農地、トラクターも馬もなくひとり鍬で耕すことの途方のなさ、そして、農地の囲いとなる石垣の連なり。
こうした広大さを一旦置いておき、友だちのおしゃべりに付き合うという、その潔さ。いつの時代も変わらないものですね。
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