第170回 雲のような人に出会ったときに思い出す詩
雲。
空を漂いながら、かたちを変えて、現れては消えてゆく。
ずっと見ていたいけれど、どこかとらえどころのない存在。
そんな人に出会ったときに思い出す詩があります。
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Clouds
Christina Rossetti
White sheep, white sheep,
On a blue hill,
When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
White sheep, white sheep,
Where do you go?
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雲
クリスティーナ・ロセッティ
白い羊 白い羊
青い丘に
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく
白い羊 白い羊
君はどこへゆくの?
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この詩、シンプルに見えて、実はけっこう深いです。まず、冒頭。
White sheep, white sheep,
On a blue hill,
白い羊 白い羊
青い丘に
白い雲は白い羊。青い空が青い草の丘。空を仰ぎ見ながら、青い草原が広がる丘をイメージできるとは、さすが詩人!
When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく
次のパートは、深読みしてみたいと思います。
風が止むとじっとして、風が吹くと去ってゆく。人生にもそういう瞬間があるなと思ってしまうんです。
安定して穏やかなときもあれば、一方で、突然の状況や心境の変化から、今のままではいられない、今のままでいたくないという思いに駆られる瞬間が。
White sheep, white sheep,
Where do you go?
白い羊 白い羊
君はどこへゆくの?
雲も、気づいたら、かたちを変えていつまでも同じではありません。そして、いつの間にか、いなくなっている。
雲も人も、一期一会。
二度と同じ雲に出会えないように、人も自分の人生に現れては、またお互いの道を選んで歩み去ってゆく。去る雲に手が届かないように、いつか人も去ってゆく。
だからこそ、ひとつひとつの出会いが奇跡のよう。流れる雲を見ていると、そんなことを考えてしまいます。
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今回の訳のポイント
雲は様々にかたちを変えます。あるときは、羊に。また、あるときは、ソフトクリームに。
この詩では、青い空は青い丘で、白い雲は白い羊。かたちを変える雲を表す英語のポイントは、when にあります。
When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく
When は「〜するとき」というだけでなく、「〜すると」という法則を表します。
「こうするとこうなる」という法則。確かに、風が吹けば雲も人もじっとしていられなくなります。それが、幸運であれ、人生の困難であれ、それをきっかけとして、わたしたちは動いて、人生を形づくっていきます。だからこそ、一歩を踏み出す人を、わたしたちは応援したくなるんですね。
空に浮かぶ雲を見ていただけなのに、人生について考えてしまう。詩人よ、ありがとう、という感じですね。