ENGLISH LEARNING

第170回 雲のような人に出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

雲。

空を漂いながら、かたちを変えて、現れては消えてゆく。

ずっと見ていたいけれど、どこかとらえどころのない存在。

そんな人に出会ったときに思い出す詩があります。

*****

Clouds
Christina Rossetti

White sheep, white sheep,
On a blue hill,
When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
White sheep, white sheep,
Where do you go?

*****


クリスティーナ・ロセッティ

白い羊 白い羊
青い丘に
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく
白い羊 白い羊
君はどこへゆくの?

*****

この詩、シンプルに見えて、実はけっこう深いです。まず、冒頭。

White sheep, white sheep,
On a blue hill,
白い羊 白い羊
青い丘に

白い雲は白い羊。青い空が青い草の丘。空を仰ぎ見ながら、青い草原が広がる丘をイメージできるとは、さすが詩人!

When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく

次のパートは、深読みしてみたいと思います。

風が止むとじっとして、風が吹くと去ってゆく。人生にもそういう瞬間があるなと思ってしまうんです。

安定して穏やかなときもあれば、一方で、突然の状況や心境の変化から、今のままではいられない、今のままでいたくないという思いに駆られる瞬間が。

White sheep, white sheep,
Where do you go?
白い羊 白い羊
君はどこへゆくの?

雲も、気づいたら、かたちを変えていつまでも同じではありません。そして、いつの間にか、いなくなっている。

雲も人も、一期一会。

二度と同じ雲に出会えないように、人も自分の人生に現れては、またお互いの道を選んで歩み去ってゆく。去る雲に手が届かないように、いつか人も去ってゆく。

だからこそ、ひとつひとつの出会いが奇跡のよう。流れる雲を見ていると、そんなことを考えてしまいます。

*****

今回の訳のポイント

雲は様々にかたちを変えます。あるときは、羊に。また、あるときは、ソフトクリームに。

この詩では、青い空は青い丘で、白い雲は白い羊。かたちを変える雲を表す英語のポイントは、when にあります。

When the wind stops,
You all stand still.
When the wind blows,
You walk away slow.
風が止むと
じっとして
風が吹くと
そっと去ってゆく

When は「〜するとき」というだけでなく、「〜すると」という法則を表します。

「こうするとこうなる」という法則。確かに、風が吹けば雲も人もじっとしていられなくなります。それが、幸運であれ、人生の困難であれ、それをきっかけとして、わたしたちは動いて、人生を形づくっていきます。だからこそ、一歩を踏み出す人を、わたしたちは応援したくなるんですね。

空に浮かぶ雲を見ていただけなのに、人生について考えてしまう。詩人よ、ありがとう、という感じですね。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END