第166回 けんかしたときに思い出す詩
大人になって喧嘩をしたことがありますか。
ちょっとしたすれ違いや誤解だったり、はたまた積年のモヤモヤが爆発したり、そんなことがきっかけで言い争ってしまったり。
そんなときに思い出す詩があります。
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Tell all the truth but tell it slant —
Emily Dickinson
Tell all the truth but tell it slant —
Success in Circuit lies
Too bright for our infirm Delight
The Truth’s superb surprise
As Lightning to the Children eased
With explanation kind
The Truth must dazzle gradually
Or every man be blind —
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真実は すべて でも斜めに教えてあげて
エミリー・ディキンソン
真実は すべて でも斜めに教えてあげて
まわり道すれば 上手くいくから
人間の喜びはひ弱で 真実はまぶしすぎるから
あまりにびっくりしてしまうから
子どもだって 稲妻は怖くなくなる
やさしく教えてあげればね
真実もゆっくり輝くほうがいい
そうしないとみんな目がつぶれちゃうから
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言葉によって、人はお互いを傷つけ、傷つきます。
だから、slant「斜めに」伝える必要があると、この詩は説きます。
Tell all the truth but tell it slant —
Success in Circuit lies
真実は すべて でも斜めに教えてあげて
まわり道すれば 上手くいくから
思いついた言葉を、そのまま相手に投げるのでなく、相手の状況や思いを慮って、言葉を選び、タイミングを見計らって、伝える必要があります。
それは、まわり道にも思えますが、結果的に、思いは無事に伝わるのだと。
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Too bright for our infirm Delight
The Truth’s superb surprise
人間の喜びはひ弱で 真実はまぶしすぎるから
あまりにびっくりしてしまうから
なぜまわり道をして伝える必要があるのかと言うと、それは真実は、Too bright「まぶしすぎる」から。
怒りの感情は、言葉の内容でなく、思いがけないタイミングで思いもよらない言葉を投げつけられたという事実にあまりにもびっくりしてしまい、思わず身体が拒否反応を示してしまうから。
As Lightning to the Children eased
With explanation kind
子どもだって 稲妻は怖くなくなる
やさしく教えてあげればね
稲妻も同じです。遠くの空を走る光なのに、おヘソなんて本当に取られることはないのに、子どもにとっては襲われるような感覚であり、恐怖を感じるものなのです。
ゴロゴロと雷が鳴る夜は、懐中電灯を持ってベッドに潜りこみ、雨を逃れて洞窟に逃げ込んだ冒険家気分で、嵐が去るのを待てば、雷なんて怖くないと分かる。
そんな素朴な子ども時代から歳を重ねて、賢くなったはずのわたしたちは、やっぱりまた、真実の眩しい光をぶん投げてしまったり、思いにまかせて言葉をぶつけてしまったり、文字通り、小さき人にカミナリを落としてしまったりするものなのです。
The Truth must dazzle gradually
Or every man be blind —
真実もゆっくり輝くほうがいい
そうしないとみんな目がつぶれちゃうから
けんかに限らず、真実はゆっくり輝くほうがいい。いいものはいいと言っても、人はモノを買ってはくれませんし、ダメなものはダメと言っても、子どもは納得してくれません。
「真実をゆっくり輝かせるコンテスト」でも開催して、皆さんのお知恵を拝借したいものです。
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今回の訳のポイント
「真実は すべて でも斜めに教えてあげて」という、なかなか強烈な一行で始まるこの詩。
うそのない真っ直ぐな言葉を投げればいいというわけではない、という人生の難しい真実を物語っています。そして、訳す上では、言葉を操る力が求められます。
Success in Circuit lies
まわり道すれば 上手くいくから
直訳すれば、「成功はまわり道にある」となりますが、それでは自己啓発書の見出しのようで、この詩全体の雰囲気に合いません。ここは定番テクニックである「名詞を動詞的に訳す」の出番です。
英語は動詞的な文が多いので、そんな中で名詞的な文があると効果が生まれます。日本語は名詞中心なので、動詞的な文にすることがコツです。そうすると、「成功はまわり道にある」も「まわり道すれば 上手くいく」と言えます。
詩を作ることも、それを訳すことも、料理と同じと感じます。食材という真実は変わらないけれど、それを下手に料理すると、素材の良さが伝わらない。修行は続く、ということですね。
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