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第164回 ダメ男に出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

ダメな男には様々なタイプがいます。

例えば、「大切にするよ」という言葉は口先だけで、「全然大切にできてないじゃん!」と言われそうなタイプ。

そういうダメ男って、別れるときに、どんな言い訳をするのか。歴史上指折りのロマンチックな詩人である、シェリーにも情けない別れの詩があったことを思い出しました。

怒らずに、別れの言い訳を、最後まで読んでみてください。

*****

On Fanny Godwin
Percy Bysshe Shelley

Her voice did quiver as we parted,  
Yet knew I not that heart was broken
From which it came, and I departed  
Heeding not the words then spoken.
Misery—O Misery,     
This world is all too wide for thee.

*****

ファニー・ゴドウィンに
パーシー・ビッシュ・シェリー

そのひとの声は震えていた 僕らが別れたとき
そのひとの心は砕けてしまったけど 僕には分からなかった 
その心からしぼり出されたものだったけど 僕は去った
そのひとの言葉に耳を傾けることなく 去った
悲しいね 悲しいよ
君にはこの世は広すぎるんだ

*****

う〜ん、別れを選んだ後悔は分かるにしても、最後の捨て台詞まで、徹底的にダメですねえ。

Yet knew I not that heart was broken
そのひとの心は砕けてしまったけど 僕には分からなかった 

相手が傷ついているか分からないから、ダメなんですよねえ。いよいよ別れるという段になってはじめて、相手がどれだけ傷ついてきたかを知るという、ダメなパターンの典型ですよね。

From which it came, and I departed  
Heeding not the words then spoken.
その心からしぼり出されたものだったけど 僕は去った
そのひとの言葉に耳を傾けることなく 去った

相手の言葉に耳を傾けないというのが、根本的に、ダメですよねえ。

心が感じていることを言葉にして絞り出すというのは、エネルギーがかかることですが、ダメな男はまずそこを理解できないので、言葉で伝えようとすればするほど虚しくなりますよね。

Misery—O Misery,     
This world is all too wide for thee.
悲しいね 悲しいよ
君にはこの世は広すぎるんだ

ひとを傷つけておいて何様だ!と怒りたくなりますよねえ。「悲しい」って、おまえが言う言葉か!と。

そうやって、自分だけの勝手な感傷に浸り、そのうえ「世の中そういうものだから」という謎の一般論を持ち出し、話を終わりにする。ダメですねえ。

「君にはこの世は広すぎるんだ」って、つまり「世の中は広いので、君には知り得ないことはたくさんあって、そこには僕が大事にしてることがある」と言いたいのかもしれませんが、、、ダメですねえ。

*****

今回の訳のポイント

この詩のタイトルとなっている、ファニー・ゴドウィンは実際に作者シェリーとひと悶着あった女性なのですが、それを説明するとワイドショーのノリになってしまうので、止めておきます。

それよりも、ダメ男の言い訳の中でも最悪な、この箇所に触れないわけにはいきません。

Misery—O Misery,
悲しいね 悲しいよ

名詞のまま「悲嘆よ ああ、悲嘆よ」と訳しても意味がありません。詩のダメなところです。さもかっこいい言葉かのように、詩らしいかっこいい雰囲気でごまかすだけで、ダメ男の真髄は伝わりません。

ポイントは、名詞を動詞・形容詞的に訳すことです。「悲嘆」でなく「悲しい」と。

英語は動詞中心の言語なので、そこに名詞が突如現れると、リズムに変化が生まれ効果があります。逆に、日本語は名詞中心なので、そこに動詞・形容詞が現れることでインパクトがあります。

その上で、わたしたちの怒りがこみ上げるほどの、ダメ男のしょうもない言い訳感を表現しなければいけません。

コツは、「ね」と「よ」の使い分けです。相手との共通認識があれば「ね」で、共通認識がなければ「よ」となります。

すると、前半は客観的判断の「悲しいね」で、「他人事かい!」という怒りがこみあげ、後半は “O” とあるように、主観的思いの「悲しいよ」で、「傷つけておいて勝手に感傷に浸るんじゃない!」という怒りが見事にこみあげます。これで、ダメ男の勝手な振る舞いがよく伝わります。

はぁ、これだけ解読してみて、やっぱり思います。この男、ダメですねえ。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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