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第163回 願いごとをするときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

夜空を翔ける流れ星。七夕の短冊。誕生日のろうそく。

わたしたちは何かと願いごとをします。

せっかく願いごとをするのだから、何か素敵な願いごとをしよう。

そんな欲がわいたときに、思い出す詩があります。

*****

I wish I were a little bird
Christina Rossetti

I wish I were a little bird
That out of sight doth soar,
I wish I were a song once heard
But often pondered o’er,
Or shadow of a lily stirred
By wind upon the floor,
Or echo of a loving word
Worth all that went before,
Or memory of a hope deferred
That springs again no more.

*****

小鳥になれたらいいな
クリスティーナ・ロセッティ

小鳥になれたらいいな
目に見えない 遥か空を翔ける小鳥に
歌になれたらいいな
誰かの耳に留まって 思い出される歌に
百合の花の影になれたらいいな
風にそよいで 床に落ちる影に
愛のささやきになれたらいいな
過ぎ去った昔 そのすべてのささやきに
いつまでも残る思い出になれたらいいな
もう二度と生まれない希望 その記憶に

*****

なんて爽やかな願いごとなのでしょう!

素敵な願いごとをしよう。そんな欲深い自分が恥ずかしくなるほどの爽やかさ!

「小鳥のように翼を手にして空を翔ける」

この爽やかさはまだ耐えられますが、この次からが、震えるほどの爽やかさ!

*****

I wish I were a song once heard
But often pondered o’er,
歌になれたらいいな
誰かの耳に留まって 思い出される歌に

once「たった一度」だけ、耳に留まっただけなのに、often pondered o’er「何度も思い返される」ような歌になりたい。

クリエイティブな仕事をしている人であれば、誰もが願うことですよね。

誰かの心に残り続けるものを作りたいのだと。

*****

Or shadow of a lily stirred
By wind upon the floor,
百合の花の影になれたらいいな
風にそよいで 床に落ちる影に

「百合の花になりたい」ならまだしも、「百合の花の影になりたい」ですよ!

わたしたちは光り輝く夢を願うわけですが、光でなく影を求めるとは!

しかも、その影はまっすぐに伸びるのではありません。風にそよぐ影!

わたしたちの心もいつも真っすぐというわけにはいきません。

人とのやり取りや外界との関わりの中で、心はいつも揺れてしまうものです。

*****

Or echo of a loving word
Worth all that went before,
愛のささやきになれたらいいな
過ぎ去った昔 そのすべてのささやきに 

そして、来ました!echo of a loving word「愛のささやき」という最強ワードが!

過去のすべてに値するようなささやきって、いったいどんな愛に溢れているのか。

その人の人生のすべてを受け止めてあげるような言葉って何だろうか。

*****

Or memory of a hope deferred
That springs again no more.
いつまでも残る思い出になれたらいいな
もう二度と生まれない希望 その記憶に

そして、悲しいような寂しいようなフィナーレ。

希望というものにもう二度と出会えないかもしれない。

かつて味わった希望の昂ぶり。それを心に留めるような記憶になりたいのだと。

空を飛ぶ小鳥や、素敵なメロディや、風に揺れる影や、やさしい言葉や、ほのかな記憶に触れたとき、この詩が、風のように心のひだを揺らしていく。そんな気がしてきませんか。

*****

今回の訳のポイント

この詩が、五月の風のように爽やかに感じられるのは、なぜでしょうか。

流れる川のようにさらさらとした言葉運びなのに、深く深く心に残るような言葉たち。

song「歌」、shadow「影」、echo「ささやき」、memory「記憶」のどれも、手でつかむことはできません。

そこにあるのは感じられるのに、実体はない。

*****

風も同じですね。頬をなでる感触はわかるけど、風をつかむことはできない。

クリスティーナ・ロセッティの詩に「風の姿を見た人はいる?」という詩があります。

ガサガサと揺れる葉によって、風の存在を知ることができるという詩で、目に見えないものをどう認識するのかを爽やかに描いています。

実体はないのに、なぜかその肌触りが感じられる不思議さ。

言葉も、理知的に解釈するというより、本能で感じることも大切ですね。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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