第153回 才能豊かな人に出会ったときに思い出す詩
才能に恵まれ、独自のセンスと圧倒的な技術で、オリジナルなものを作り出す人がいます。
しかし、見る人が見れば明らかに特別な才能に、一般の人がついていけない場合があります。
そうやって、正当な評価を得られていない人に出会うと、蜘蛛の詩を思い出します。
なぜ才能と蜘蛛が結びつくのか。まあ読んでみてください。
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The Spider as an Artist
Emily Dickinson
The Spider as an Artist
Has never been employed—
Though his surpassing Merit
Is freely certified
By every Broom and Bridget
Throughout a Christian Land—
Neglected Son of Genius
I take thee by the Hand—
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蜘蛛は芸術家として
エミリー・ディキンソン
蜘蛛は芸術家として
雇われたことはない
そのずば抜けた能力は
文句なしなのに
あらゆる箒や女中に
キリスト教世界では
蔑ろにされている
そんなあなたと
わたしは握手しよう
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蜘蛛の巣は、素晴らしい幾何学模様の芸術作品。自らの糸で織りあげた巣は、天井の隅で、森の木々の間で、確かに光っています。
The Spider as an Artist
Has never been employed—
Though his surpassing Merit
Is freely certified
蜘蛛は芸術家として
雇われたことはない
そのずば抜けた能力は
文句なしなのに
しかし、だからといって、蜘蛛は芸術家として雇われることはありません。
往々にして、世間というのは肩書を求めるものです。蜘蛛がどんなに素晴らしい造形物を作るとしても、芸術家という肩書がなければ、ただの蜘蛛です。
素晴らしい文章を書くからと言って、作家でなければ見向きもされませんし、素晴らしい絵を描くからと言って、画家でなければ認められません。
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By every Broom and Bridget
Throughout a Christian Land—
Neglected Son of Genius
あらゆる箒や女中に
キリスト教世界では
蔑ろにされている
造形それ自体はどんなに素晴らしくても、女中さんの箒で払われてしまう。それが蜘蛛の巣の運命。
人間関係や力関係によって、成果物が正当に評価されなかったり、価値を見極められない人に邪険にされたり、才能というものは日の目を見ないこともあるのです。
しかし、それでも一定数の人は、その才能に惚れ込み、その作品に共感し、心の支えとさえするのです。
箒で払われても、また巣を作る蜘蛛のように、才能ある人はまた必ず何かを生み出すことができるのだ。そう信じたくなります。
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今回の訳のポイント
この詩に登場する、Bridget「ブリジット」って誰だ?という疑問があるかもしれません。
考え方としては、アメリカへ渡ったアイルランド移民の女性の多くが女中となったこと。そんな彼女たちの中でも、ブリジットという名前が多かったことから、女中を指すと考えると分かりやすいかもしれません。
そして、この詩の最後の一文が、愛に溢れていますよね。
I take thee by the Hand—
そんなあなたと
わたしは握手しよう
世間に認められない天才。それは特別な人だけではありません。
誰しも、それぞれにオリジナルな人生経験と能力をもっているわけで、自分らしさというのを認め認められて生きられたらと心のどこかで願います。
宇宙的視点で考えれば、蜘蛛もヒトも地を這う生き物ではありますが、分かり合えるもの同士が、固く握手するように心を通わすことができれば、もっと胸を張っていられるはずだと思えてきます。
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