第152回 集中できないときに思い出す詩
集中して仕事や作業をしたいときに限って、邪魔が入ることがあります。
自らが強く信じるものがあるのに、周囲の雑音が気になって、心が揺れることがあります。
そんなときに思い出す詩があります。
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The Pond
Amy Lowell
Cold, wet leaves
Floating on moss-coloured water
And the croaking of frogs—
Cracked bell-notes in the twilight.
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池
エイミー・ロウエル
冷たく濡れた落ち葉が
苔色の水面に浮かぶ
蛙の鳴き声が
夕暮れの鐘の音をかき消す
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うーん、どうでしょう。4行だけの俳句的風情のある詩ですが、集中することと何の関係があるのか、ちょっと考えてみてください。
Cold, wet leaves
Floating on moss-coloured water
冷たく濡れた落ち葉が
苔色の水面に浮かぶ
完全に集中しているときって、心は研ぎ澄まされていますよね。まるで、冬の寒い日に波紋ひとつ立たずに横たわる池の水面のように。落ち葉が漂っても乱されることはありません。
メッセージの通知が鳴っても、頭と手がひたすら働き続けたり、あれこれと他人から言われても気にせず、自分の信念に従って納得の行く決断ができたり。冬の池の水面のように、揺るぎない落ち着きをもって、専心努力をすることだけを、ひたすら考えるとき。
しかし、そうした時間が乱されることがあります。
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And the croaking of frogs—
Cracked bell-notes in the twilight.
蛙の鳴き声が
夕暮れの鐘の音をかき消す
自分にとって理想的な時間が、雑音に襲われるとき。猛烈に集中しているときに限って、電話やメッセージが入って、手繰り寄せた思考の糸が切れてしまったり。思いついたいい考えが何だったのか、思い出せなくなってしまったり。一度切れた集中を取り戻すのは、簡単ではありません。
音は音でも、鐘の音が良いわけで、蛙の鳴き声が望むものでなかったりもします。それと同じように、アドバイスならなんでもいいわけではありません。ある人にとって鐘の音のような言葉は、別の人には蛙の鳴き声でしかない場合があります。
そうやって、自分の心の声と、外から聞こえる声にギャップがあると、一方向を向いていた心が乱れてしまったりもするのです。
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今回の訳のポイント
この詩の作者、エイミー・ロウエルは、俳句への関心も強く、英語俳句や俳句風の短い詩などを、大量に残しました。
イメージを独自の視点で切り取り、それを短い言葉で端的に伝えきるという点、英語という言語で日本語的発想を伝えることに腐心していることが、よく分かります。
英語の詩は、短歌のように言葉と言葉に密接な関係があることが多いのですが、俳句的に言葉を並べると、そこにつながりはありません。英語で読む人の頭の中では、どのようにイメージが喚起されるのだろうかと思います。
とは言え、日本人としては、詩の中で「鐘」と言われると、「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句を思い浮かべてしまいますよね。
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