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第149回 モナ・リザを見たときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

モナ・リザを見たときに詩を思い出すことなんてあるのか?と思うかもしれません。でも、あるんです!

なぜなら、モナ・リザを描いた詩があるからなんです。見たものを、詩を通して言葉にできたら、素敵なことだと思いませんか。

一体どんな詩になるのか、まあ読んでみてください。

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La Gioconda
(Leonardo da Vinci, The Louvre)
Michael Field

Historic, side-long, implicating eyes;
A smile of velvet’s lustre on the cheek;
Calm lips the smile leads upward; hand that lies
Glowing and soft, the patience in its rest
Of cruelty that waits and does not seek
For prey; a dusky forehead and a breast
Where twilight touches ripeness amorously:
Behind her, crystal rocks, a sea and skies
Of evanescent blue on cloud and creek;
Landscape that shines suppressive of its zest
For those vicissitudes by which men die.

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ラ・ジョコンダ
マイケル・フィールド

長く語られて来た 思わせぶりな流し目
頬に浮かぶベルベットのような艷やかな微笑み
その微笑みが持ち上げた唇
優しく輝く手 焦りなど感じさせず置かれた手
餌食を待ち構えるけれど 必死に探し求めるのでない手
ぼんやりとやわらかい額と胸
豊饒さに甘く光を落とす黄昏
背後には水晶の岩が 海が 空が
雲を 渓流を 幽玄なる青に染める
背景となる自然はその壮麗さを抑えて輝く
そこには栄枯盛衰があり
ひとはそのために命を終える

*****

モナ・リザという肖像画は、イタリア語ではLa Gioconda(ラ・ジョコンダ)。

モデルとなった女性が、Lisa del Giocondo(リザ・デル・ジョコンド)であるからですが、やはり最初に見てしまうのは、あの目なんですよね。そして口元に浮かぶ微笑。何とも言えない表情を作り出していますよね。

そうした顔のパーツの次に目が行くのは、手。静謐で穏やかな物腰を象徴するような手。そして、より大きな面を占める額や胸に視点が移っていき、最後には背景の描写に至ります。

Where twilight touches ripeness amorously:
豊饒さに甘く光を落とす黄昏

amorously「官能的に」差す黄昏の光って、どんなに甘くとろけるような光なのだろうかと。この詩に出会うまで、モナ・リザの背景を、そんな気持ちで見たことなかったなと。

絵画や彫刻といった視覚芸術を見て、言葉で描写することを「エクフラシス」と言いますが、詩人は、一体どんな頭と心で事物を見るのだろうと思います。

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Landscape that shines suppressive of its zest
For those vicissitudes by which men die.
背景となる自然はその壮麗さを抑えて輝く
そこには栄枯盛衰があり
ひとはそのために命を終える

最後の結論部で、背景となる自然の姿を見て出てくる言葉。これが心を打ちますよね。

肖像画として、何世紀も越えて人々の注目を浴び愛されるモナ・リザ。500年以上前に描かれて以来、いくつもの国家が生まれては消え、何世代にも人も入れ替わってきました。そうした栄枯盛衰にまで、思いを馳せる。

モナ・リザを見て、この結論を導き出すとは!さすが、詩の持つ力!

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今回の訳のポイント

絵を言葉で描写し、詩にするだけでもすごいのに、実はこの詩、もっともっとすごい秘密があるんです!

実は、この詩の作者、Michael Fieldは女性なんです!しかも、2人組の女性なんです!しかも、2人は叔母と姪という関係!2人でひとりの男性詩人の名で、詩を発表していたのです。

女性が詩を書き出版することが難しかった時代。それなら、素性を隠して男性名で発表すればいいじゃないかと。そうやって、2人で詩を発表したのです。考えてみると、ブロンテ姉妹の3人も素晴らしい詩人ですが、同じ理由で、生前は男性名で詩集を発表していました。

果たして、詩の作者が男性であるか女性であるかによって、感じ方は変わるでしょうか。男性詩人も、女性詩人もなく、存在するのは詩人なのだなと、この詩を読むとしみじみ感じます。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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