第144回 プレゼントが気になるときに思い出す詩
誕生日やクリスマス、人はプレゼントを贈り合います。
プレゼント選びは、相手の希望や期待に応えようとすると、けっこう難しいものです。また、もらう側も、口には出さないけれど、プレゼントをもらえるという期待があって、どんなプレゼントなのだろうかと気になったりするものです。
そんなときに思い出す詩があります。
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Little Brother’s Secret
Katherine Mansfield
When my birthday was coming
Little Brother had a secret:
He kept it for days and days
And just hummed a little tune when I asked him.
But one night it rained
And I woke up and heard him crying:
Then he told me.
“I planted two lumps of sugar in your garden
Because you love it so frightfully.
I thought there would be a whole sugar tree for your birthday.
And now it will all be melted.”
O the darling!
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弟の秘密
キャサリン・マンスフィールド
わたしの誕生日が近づくと
弟は内緒にしていることがあるようだった
何日も秘密を守り通していた
教えてと頼むと鼻歌でごまかすのだった
ところがある夜、雨が降って
起きると弟が涙に暮れていた
それで教えてくれた
「角砂糖をふたつ。お庭に埋めたんだけど
だって、お姉ちゃんはお砂糖が好きだから
お誕生日にお砂糖の木が生えると思ったんだけど
これじゃ全部とけちゃう」
なんて可愛いの!
*****
小さな子どもは、ときに、絵本の世界の住人のごとく、たくましい想像力で、大人を驚かせます。
それにしても、お砂糖の木とは、、、
He kept it for days and days
And just hummed a little tune when I asked him.
何日も秘密を守り通していた
教えてと頼むと鼻歌でごまかすのだった
子どもが可愛いのは、本人は秘密を守ろうと平静を装っているつもりでも、顔がにやけてしまっていたり、その秘密がチラチラと背後に見えてしまっていたり、そういう隙なんですよねえ。
そして、何よりも可愛いのは、現実という壁にぶち当たって、思う通りに行かなかったときの落胆ぶり。
But one night it rained
And I woke up and heard him crying:
ところがある夜、雨が降って
起きると弟が涙に暮れていた
そういうものなのだから我慢しなさい。いつまでもメソメソしていないで元気出しなさい。そう声をかけても、一向に立ち直れそうな気配もなく、泣くか、ふてくされるか。
そのあまりにも飾り気のない、むき出しの感情に、わたしたちは日々恋に落ちるわけです。
Because you love it so frightfully.
I thought there would be a whole sugar tree for your birthday.
だって、お姉ちゃんはお砂糖が好きだから
お誕生日にお砂糖の木が生えると思ったんだけど
そして、愛おしさを一層掻き立てるのは、子どもを突き動かすのは、相手を思いやる気持ちであるという事実。
「だって、お姉ちゃんはお砂糖が好きだから」この思いひとつで、子どもは頭と手足を働かせ、行動を起こします。小さな身体のどこに、そんなに大きな心がしまわれているのだろうか!そんな感動を、この詩は思い出させてくれます。
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今回の訳のポイント
言葉の数が少ない中で、読む人が状況を理解できるようにしつつ、詩を訳すのは、なかなか至難の技です。今回の詩の最大の難関は、「砂糖」です。
I planted two lumps of sugar in your garden
角砂糖をふたつ。お庭に埋めたんだけど
果たして、子どもはひと言目に「角砂糖」と言うだろうかという問題があります。現実世界では、きっとこうなるはずです。
「お砂糖がね、、、グスン」
「お砂糖がどうしたの?」
「お砂糖が、、、グスン」
「泣いてちゃ分からないでしょ。お砂糖がどうしたの?」
「お砂糖の木、、、グスン」
「お砂糖の木?お砂糖の木がどうしたの?」
「お姉ちゃんの誕生日、、、グスン」
「(まったく話が見えてこないな、、、)」
「お姉ちゃんがお砂糖好きだから、、、」
「そうだね。お姉ちゃんはお砂糖好きだね」
「お砂糖のプレゼント、、、」
「あー、お姉ちゃんにお砂糖をプレゼントするのね?」
「でもとけちゃう」
「お砂糖をこぼしたの?」
「お庭に埋めたから、、、」
「(あー、粉砂糖じゃなくて、角砂糖だったんかーい!)」
こんなやり取りをすっ飛ばして、いきなり「角砂糖」と言うのは無理な話だなと、想像しただけでニヤニヤしてしまいます。
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