第143回 心が折れそうなときに思い出す詩
どんなにがんばっても結果が出なかったり、努力が水の泡になってしまったり、懸命に積み上げて来たものを台無しにされたり。病に冒されたり、身体が衰えたり。
人生には、どうやっても上手く行かないことがあります。望まぬ運命に振り回されて苦しいとき、心が折れそうなとき、そんなときに思い出す詩があります。
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Sympathy
Emily Brontë
There should be no despair for you
While nightly stars are burning;
While evening pours its silent dew,
And sunshine gilds the morning.
There should be no despair—though tears
May flow down like a river:
Are not the best beloved of years
Around your heart for ever?
They weep, you weep, it must be so;
Winds sigh as you are sighing,
And winter sheds its grief in snow
Where Autumn’s leaves are lying:
Yet, these revive, and from their fate
Your fate cannot be parted:
Then, journey on, if not elate,
Still, never broken-hearted!
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シンパシー
エミリー・ブロンテ
あなたに絶望などありえない
夜ごと星が空に燃え
夕暮れが静かに露を落とし
陽の光が朝を金色に煌めかせるうちは
絶望などありえない 涙は
川のごとく流れ落ちるけど
幾年月心から愛した人たちは
永遠にその心とともにあるものでしょ?
人は泣く あなたは泣く そういうものだから
あなたがため息つけば風もため息をつく
冬は悲しみを雪にして積もらせる
散り積もった秋の葉を覆ってゆく
それでも あの人たちは甦る あの人たちの運命と
あなたの運命は分かち難いものだから
ならば 歩み続けよう 心は弾まなくとも
ただ決して 心折れずに!
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この詩のキーワードは、Fate「運命」です。もう少し言うと、自分にはコントロールできない自然の理と言えそうな何か。それは何なのか考えてみたいと思います。
While nightly stars are burning;
While evening pours its silent dew,
And sunshine gilds the morning.
夜ごと星が空に燃え
夕暮れが静かに露を落とし
陽の光が朝を金色に煌めかせるうちは
夜空に輝く星。朝に昇る太陽。秋に落ちる葉。冬に降る雪。これらは、いつも変わらずに繰り返される自然の営みです。
日は沈めば、また昇る。葉は落ちれば、また芽吹く。そうやって、巡り来るもの。それもまた自然の運命なのです。
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人の営みはどうでしょうか。
病に苦しんだり、死別や離別に直面したり。仕方ないと思っても、いつまでも割り切れない気持ちに悩まされ、心が耐えきれなくなることが、人生にはあります。
They weep, you weep, it must be so;
Winds sigh as you are sighing,
人は泣く あなたは泣く そういうものだから
あなたがため息つけば風もため息をつく
泣いたりため息をつくのは、決してあなたが弱い人間だからというわけではありません。悲しければ涙はこぼれ、辛ければため息も漏れます。そういうものだからなんです。
Yet, these revive, and from their fate
Your fate cannot be parted:
それでも あの人たちは甦る あの人たちの運命と
あなたの運命は分かち難いものだから
大切な人たちのことを思うとき、たとえその人は目の前にはもういなくても、ともに生きた瞬間は確かなものであり、分かち難いもの。そう信じられるのです。
Then, journey on, if not elate,
Still, never broken-hearted!
ならば 歩み続けよう 心は弾まなくとも
ただ決して 心折れずに!
決して、無理して笑う必要も、元気いっぱいに跳ね回る必要もありません。良いこともあれば悪いこともある。悪いこともあれば良いこともある。そうやって、地球は回っている。だからこそ、決して心折れずに歩み続けるだけなんです。
そう言われると、涙でびしょびしょに濡れながらも、ため息つきながらも、歩みだけは止めずに、一日一日を生きていけそうな気がしませんか。
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今回の訳のポイント
一行一行にほとばしる熱き思いに、うるうるしながら読んでいると、涙が一気にバシャーっとこぼれる行に出会います。
Are not the best beloved of years
Around your heart for ever?
幾年月心から愛した人たちは
永遠にその心とともにあるものでしょ?
「人は心の中で生き続ける」とよく言われます。ふとした拍子に、共に過ごした時間の中のある瞬間が鮮明に思い出され、甦ったように感じることもあります。こうすべきだよね?と心の中に問いかけると、頷いてくれる姿が思い浮かぶような気がしたりもします。
そんな思いに、やさしく寄り添うような、静かに、でも強く問いかけるような詩。そのタイトルは Sympathy。
日本語の辞書的な訳では、まず「同情」が挙げられますが、その根底にある意味は「共感」であり「共鳴」です。人が誰でも直面する人生の困難に、「皆そういうものだよね」とやさしく寄り添ってくれる心が表現されていますよね。
そして、何よりも驚愕し勇気に心が震えるのは、作者エミリー・ブロンテがこの詩を書いたのが21歳ごろという事実!イギリス北部の荒野に吹きすさぶ風にさらされ、慎ましく生きた若き詩人の心にたぎる熱き思い。これをsympathyと呼ばずして、何と呼べばいいのでしょう!
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