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第141回 素晴らしいアイデアが思い浮かんだときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

素晴らしいアイデアが思い浮かんで、ウキウキとワクワクが止まらないことがあります。

こうしてみよう、ああしてみようと構想が広がり、実際に動いてみる。しかし、現実は甘くなくて、行き詰まってしまうこともあります。

この落差に心揺さぶられるときに思い出す詩があります。

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Nothing Gold Can Stay
Robert Frost

Nature’s first green is gold,
Her hardest hue to hold.

Her early leaf’s a flower;
But only so an hour.

Then leaf subsides to leaf.
So Eden sank to grief,

So dawn goes down to day.
Nothing gold can stay.

*****

黄金の輝きは必ず失われる
ロバート・フロスト

自然の生まれたての緑は金色
金色こそ留めるのが一番難しい

はじめ葉は花となって咲くが
それはいっときのこと

やがて葉は落ち葉として散ってしまう
エデンの園も悲しみに沈んだ

そうやって夜明けも昼に落ちぶれる
黄金の輝きは必ず失われる

*****

この詩は、輝けるものはすべて滅びるという「諸行無常」を描いた名作と言われます。

草木の芽生えは、金色に輝くような若葉からはじまりますし、人生を考えてみても、若さは金色の輝きを放ちます。

若さ。それは、人の命の最初の輝きではありますが、一瞬で過ぎゆき、保つことは難しいものです。そして、葉も、秋には落ち葉として散りゆく運命。

それはエデンの園が辿った末路でもあり、生まれしものはいつか死ぬ運命にある、という人生の理を描いていると言われます。

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ただ、自分としては、アイデアを思いついてから、それがうまく実を結ばず挫折していくプロセスに重ね合わせながら読んでしまうんです。

アイデアとは、自分の頭脳が産み落とした子ども。生まれたてのアイデアは、可能性と期待に輝きます。

しかし、様々な人の意見を反映させたり、現実に実現可能な形にしていこうとしたりすると、当初の輝きは失われ、凡庸なアイデアに成り下がってしまうことがあります。

So dawn goes down to day.
Nothing gold can stay.
そうやって夜明けも昼に落ちぶれる
黄金の輝きは必ず失われる

オリジナルでエッジが効いたアイデアの鮮度を落とさずに、いかに運用可能な姿に落とし込むか。それがもっとも刺激的なプロセスになるのですが、金色のアイデアの輝きを活かし続けるのは簡単ではありません。

そんなことを考えていると、「金色の輝きは必ず失われる」というフレーズが、悪魔の呪文のように聞こえてきます。それに抗うように、いい仕事をしたいという思いを一層強くして、がんばろうと思うのです。

*****

今回の訳のポイント

この詩は内容もさることながら、声に出して読んだときの響きに、一層の説得力があります。

Nature’s first green is gold,
Her hardest hue to hold.
自然の生まれたての緑は金色
金色こそ留めるのが一番難しい

「緑は金色」って、どういうことなのかと思ったりしますが、確かに、葉はふつう緑色でも、芽吹きの色は柔らかな金色と言えます。このふたつの色の結びつきを強めるかのように、green/goldとどちらも同じ g の音で始まっています。

そして、次の行は、輝きは失われていくのだという、はかなく悲しい現実を表すかのように、Her/hardest/hue/hold とすべて h で始まっています。息を吐き出す h の音が、口から洩れる吐息のかすかさによって、輝きの薄れていく様を象徴しています。

So dawn goes down to day.
Nothing gold can stay.
そうやって夜明けも昼に落ちぶれる
黄金の輝きは必ず失われる

夜明けというと、ふつうは、昇ってゆく太陽とともに輝かしい一日の幕開けを象徴しますが、ここでは、down to day「昼に落ちぶれる」と言っています。輝かしい夜明けは、昼という二流品に成り下がってしまうのだと。

考えてみると、人間は生まれてしまった後は、ひたすらに「死」へと向かって坂道をころころと転がり落ちていくものでもあるのです。シンプルでリズムの良い韻が、転がり落ちていくような生の有り様を、絶妙に表現していて、読み終わると思わず深いため息をついてしまうのです。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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