第140回 新発見をしたときに思い出す詩
仕事や生活の中で、自分なりの新発見をする時があります。
こんなことが世の中にあるのか!という驚きや、こうしたら解決するかもしれない!という興奮。
昨日までは見えていなかったことが、あることをきっかけに、はっきりと認識できる感覚。
そんな新たな気づきを得たときに思い出す詩があります。
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Wind and Silver
Amy Lowell
Greatly shining,
The Autumn moon floats in the thin sky;
And the fish-ponds shake their backs and flash their dragon scales
As she passes over them.
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風と白銀
エイミー・ロウエル
眩しすぎるほど輝いて
秋の月が高い空を漂う
魚の池に背中が揺れる
龍の鱗が垣間見える
月が夜空を渡る間に
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一体この詩のどこが新発見と結びつくのか。
そんな声が聞こえてきそうですが、よくよく読んで、情景を思い浮かべてみてください。
夜の暗闇の中、月が皓々と照っている。月の光は、鉛のような水面に反射している。
月光は、一筋の光となって水面に落ちる。揺れる水面は、龍の鱗のように波立つ。それはまるで龍の背中!
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どうですか?頭の中でイメージできましたか?
海面に伸びる一本の月光の道は、「月の道」や「ムーンロード」と言われます。まさにその光景を4行の詩に凝縮しているということになります。
海・月・光は、いつもそこにあるモチーフですが、それが龍の背中に見えたという個人的発見。その驚きと興奮。
古代ギリシャのアルキメデスが、お風呂に入っていたときに浮力の原理に気づき、「エウレカ!エウレカ!」と叫んで裸で駆けだしたという逸話があります。
「エウレカ!」とは「見つけた!」「分かった!」という意味です。
自分なりに何らかの法則やパターンに気づいたり、世の中の事実を新たに知ったり、問題点や解決策が見えたり。
日々の生活のなかで、そんな「エウレカ!」の瞬間を、多く味わいたいといつも思います。
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今回の訳のポイント
この詩の最大の難関は、詩の舞台設定を担う、秋の月を描いたこの一行です。
The Autumn moon floats in the thin sky;
秋の月が高い空を漂う
最後の the thin skyを「薄い空」としても意味を成しません。
秋の空は、光を多く反射させるような水蒸気が少なく、そのためより小さな粒子に散乱する光、つまり青の光が強く、青々とした空になります。いつもより高く感じる空。空を、高く昇れば昇るほどに、空気は薄くなる。
そうすると、言えそうなのが「高い空」。空が高いというのも不思議な形容ですが、秋の空を描写するのに、それ以外の表現が見当たらないですよね。
そして、龍は、空でなく水面を走るというのが、詩らしい感覚ですよね。わたしたちの日常生活は、こうした詩的驚きと興奮に満ちているのだと、改めて感動します。
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