第139回 自分のことで精一杯なときに思い出す詩
忙しくて心の余裕を無くしてしまうことがあります。
自分のことで精一杯なときは、自分の近くで、または遠くで、助けを必要としている人の声に気づけなくなってしまったりします。
そんなときに思い出す詩があります。
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November Night
Adelaide Crapsey
Listen. . .
With faint dry sound,
Like steps of passing ghosts,
The leaves, frost-crisp’d, break from the trees
And fall.
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11月の夜
アデレイド・クラプシー
耳を澄ましてごらん
微かな乾いた音が聴こえる
幽霊が通る その足音のように
木の葉が 凍りついたかのように
樹からちぎれて
散ってゆく
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秋の森で木の葉が散ってゆくだけの詩なのに、余裕のない自分自身のことをなぜ考えてしまうのか。
Listen. . .
With faint dry sound,
耳を澄ましてごらん
微かな乾いた音が聴こえる
心にゆとりがないと、木の葉の音に、人の心の声に耳を傾けることができなくなってしまいます。落ち葉のじゅうたんに、木の葉が落ちるときのパサッという音と同じように、人の心のざわめきを聴き取ってあげなければいけません。
Like steps of passing ghosts,
幽霊が通る その足音のように
幽霊って足があるのかな、というくだらない疑問も浮かんだりはするのですが、ここで思い浮かぶのは「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉。
幽霊かと思って怯えていたら、それは枯れたススキだっただけ、という話のように、物事に向き合うことなく騒ぎ立てて本質を見誤ってしまうことがあります。心に余裕がないと、結論を焦ってしまったり、全体を見渡す手間を惜しんで性急な選択をしてしまったりします。
木を見て森を知り、森を見て木を知るように、俯瞰してみたり、近づいてよく見てみたりしていると、今まさに、ちぎれて散ってゆく葉を目の当たりにすることができる。
そうやって、五感を研ぎ澄まして森を歩くように、人の世を生きていたいと思います。
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今回の訳のポイント
この詩は、特別な詩です。
作者のアデレイド・クラプシーは、五・七・五の俳句のような定型詩を追求した詩人でした。音節の数が、2・4・6・8・2の5行の詩を標準の型にしていて、制約のある中に言葉を凝縮させるのは、まさに俳句的作業と言えます。
少ない語数から想起させる豊かなイメージと、一定のリズムがもつ均整のとれた美。まさに俳句の世界ですね。
そして、この詩を特別にしているもう一つの理由が、この詩人が36歳という若さで亡くなっているということです。19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、アメリカとヨーロッパを行きつ戻りつしながら、才能を開花させながらも、あっという間に散ってしまった。
鮮やかな才能を放つ人が、なぜか早々とこの世を去ってしまう。だからこそ、そんな詩人の声に耳を傾け、秋の森を歩こうと思います。
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