第136回 残業しているときに思い出す詩
遅くまでオフィスで仕事をしていると、夜の闇を照らすかのように、ビルの窓という窓に、煌々とした光が灯っているのが目に入ります。
ああ、この窓の向こうでも、同じように皆が額に汗して働いているんだなと。そんなときに思い出す詩があります。
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Lights
Sara Teasdale
When we come home at night and close the door,
Standing together in the shadowy room,
Safe in our own love and the gentle gloom,
Glad of familiar wall and chair and floor,
Glad to leave far below the clanging city;
Looking far downward to the glaring street
Gaudy with light, yet tired with many feet,
In both of us wells up a wordless pity;
Men have tried hard to put away the dark;
A million lighted windows brilliantly
Inlay with squares of gold the winter night,
But to us standing here there comes the stark
Sense of the lives behind each yellow light,
And not one wholly joyous, proud, or free.
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明かり
サラ・ティーズデイル
夜わたしたち家に着きドアを閉める
明かりもつけず暗い部屋にふたり
一緒にいる温かさ 暗いけど穏やかで
なじみの壁が 椅子が 床がある
街の喧騒は遥か下に置いてきた
ギラギラした街の明かりを見下ろす
けばけばしい光 重々しい人々の足どり
何とも言えない気持ちが湧き上がる
人間は 暗闇を減らそうと努力し
何百万という窓を光で満たしてきた
冬の夜には黄金に輝く四角い光たちだけど
ここに立つわたしたちをふと襲う感覚がある
黄色い光それぞれの向こうに暮らしがある
喜びもなく、誇りもなく、自由もない暮らしが
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「喜びもなく、誇りもなく、自由もない暮らし」なんて、ちょっとそれは言い過ぎだろうとも思いますが、この詩が書かれたのは、100年ほど前!当時、電燈が普及していく中で書かれたと考えると、理解できる気もします。
そして、夜を照らすビルの窓の灯。その情景は今も昔も変わらないなと思います。
Men have tried hard to put away the dark;
A million lighted windows brilliantly
人間は 暗闇を減らそうと努力し
何百万という窓を光で満たしてきた
これが、グッと来ますよね。人の手で作り出した電気。その力を活かすべく、暗闇を光で満たしていく。人生というまっさらな時間を満たすべく、わたしたちは光り輝く瞬間を求め、時間を満たそうとしていきます。
そうした外面的な華やかさに惹かれるのですが、ふと立ち止まってしまうときがあります。
Glad to leave far below the clanging city;
Looking far downward to the glaring street
Gaudy with light, yet tired with many feet,
In both of us wells up a wordless pity;
街の喧騒は遥か下に置いてきた
ギラギラした街の明かりを見下ろす
けばけばしい光 重々しい人々の足どり
何とも言えない気持ちが湧き上がる
街には光が溢れますが、そこに生きるわたしたちの足取りはいつも軽くという訳にはいきませんし、目もいつも輝いているとは言えません。清濁併せ呑むのが人生とは言え、「何とも言えない気持ちが湧き上がる」のも理解できます。
When we come home at night and close the door,
Standing together in the shadowy room,
Safe in our own love and the gentle gloom,
Glad of familiar wall and chair and floor,
夜わたしたち家に着きドアを閉める
明かりもつけず暗い部屋にふたり
一緒にいる温かさ 暗いけど穏やかで
なじみの壁が 椅子が 床がある
そんなときに、薄暗い部屋の暖かさと穏やかさが心地良かったりもするんですよね。
人生を照らそうと、わたしたちは暗闇の中で懸命にもがいてしまうのですが、無理に照らす必要もなく、穏やかな薄暗さもあってもいいんだ。そう思えてきます。
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今回の訳のポイント
都会のビルの明かりとは裏腹に、心に忍び寄る落ち着かない複雑な感情。そんな少し苦い味がする詩なのですが、やさしさにも溢れていますよね。
But to us standing here there comes the stark
Sense of the lives behind each yellow light,
ここに立つわたしたちをふと襲う感覚がある
黄色い光それぞれの向こうに暮らしがある
ふと窓の外を見やると、同じように遅くまで煌々と明かりを灯しながら、人がそれぞれの時間とエネルギーを費やしながら生きているのだと分かります。
宇宙から見たら、光の塊にしか見えない都市ですが、クローズアップするとそこには窓の一つ一つがあって、確かに人の営みがある。そんなことを考えていると、もうひと頑張りしようと思えてくるのです。
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