第135回 人生について悩むときに思い出す詩
生きていると悩みは尽きません。
出会いや別れ。仕事と生活。自分と社会。
様々なものごとに向き合いながら、一日一日を生きて、わたしたちは歳を重ねていきます。
自分はどうしたらいいのかな。そう思ったときに思い出す詩があります。
*****
A Baby-Sermon
George MacDonald
The lightning and thunder
They go and they come:
But the stars and the stillness
Are always at home.
*****
小さき人へ
ジョージ・マクドナルド
雷光と雷鳴
去来するもの
星屑と静寂
そこにあるもの
*****
人生におけるThe lightning and thunder「雷光と雷鳴」って何だろうと考えてみると、いろいろな考え方ができるなと思います。
The lightning and thunder
They go and they come:
雷光と雷鳴
去来するもの
目を覆いたくなるような悲しいことや、耳をふさぎたくなるような辛いこと。そういったことの象徴としての雷光と雷鳴。嵐が通りすぎるのを、じっと耐えて待つ。そんな試練の時が人生にはあります。
一方では、暗闇を照らしてくれるようなまぶしいほどの喜びを感じたり、多くの人の耳にも届くような大きな成果を上げたりすることもできるのが、人生です。
しかし、ふと考えてみると、こうした悲しみや苦しみも喜びも成果も、言ってみれば、一過性のものであり、決して一生続くようなものではないというのも真実なのです。
今日は笑っていられても明日には絶望の淵に立たされるかもしれない。今日は失敗に打ちひしがれていても明日には大きな成果として結実するかもしれない。これは人生の一瞬一瞬で「去来するもの」でしかないとも言えるのです。
*****
では、確かなものって人生にあるのかなと考えていると、答えを教えてくれます。
But the stars and the stillness
Are always at home.
星屑と静寂
そこにあるもの
雷光や雷鳴のような目立つものだけが人生ではありません。
栄枯盛衰の世の中で、変わらずに巡り来る星たち。激しい雷光や雷鳴の後に訪れる穏やかな静寂。これもまた人生なのです。
余計なものがそぎ落とされた後に残る静寂のように、立ち戻れるもの。それが何なのかを突き止めたい、というのが悩みの根っこなのかもしれません。
たった4行の詩なのに、鮮烈なイメージと、心にじわじわ染みるメッセージで、ウルッと来ますね。
*****
今回の訳のポイント
この詩の最大の難関は、最終行にあります。
But the stars and the stillness
Are always at home.
星屑と静寂
そこにあるもの
人の世の喧騒はあっても、変わらずに運行する星たちや、嵐が去った後に訪れる静けさ。
それは、我が家のような、ふるさとのような、自分にとっての居場所のような、そんな穏やかなもの。それが home であると言えます。
いつも変わらずにあり、心の拠り所となるもの。そうした抽象的な心のありかをひと言で表すならば、「そこにあるもの」となるのではないでしょうか。