第134回 深い森に行ったときに思い出す詩
森を歩くのが好きです。
誰ともすれ違わないような深い森をどこまでも歩いていると、異世界に迷い込んだような感覚になることがあります。
そんなときに思い出す詩があります。
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The Faery Forest
Sara Teasdale
The faery forest glimmered
Beneath an ivory moon,
The silver grasses shimmered
Against a faery tune.
Beneath the silken silence
The crystal branches slept,
And dreaming thro’ the dew-fall
The cold white blossoms wept.
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妖精の森
サラ・ティーズデイル
妖精の森の煌めき
象牙の月に照らされて
銀色の下草が光に揺れる
響くのは妖精の歌声
絹のような静寂に包まれて
水晶の梢は寝息をたてる
夜露が降りて夢を見る
涙に濡れるのは冷たく白き花々
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深い森に分け入るとたどり着くのは、妖精の森。鬱蒼とした森に光るものがあれば、それは妖精の世界の入口です。
The faery forest glimmered
Beneath an ivory moon,
The silver grasses shimmered
Against a faery tune.
妖精の森の煌めき
象牙の月に照らされて
銀色の下草が光に揺れる
響くのは妖精の歌声
夜になると、森には月の光が差し込みます。鬱蒼とした森も、銀色の光に包まれます。そんな光に誘われるように、妖精が踊りだします。
こんなに幻想的な光景、実際には見たことがないのに、なぜか頭の中ではイメージできる。なぜなんでしょう。
Beneath the silken silence
The crystal branches slept,
絹のような静寂に包まれて
水晶の梢は寝息をたてる
The silken silence「絹のような静寂」って、どんな静寂なんだろう。そんなことを考えていると、The crystal branches「水晶の梢」と、ロマンチックなイメージが次々押し寄せてきます。
これだけであれば、ただのロマンチックで素敵な森の描写として終わるのですが、そこで終わらないのが、この詩の良いところです。
And dreaming thro’ the dew-fall
The cold white blossoms wept.
夜露が降りて夢を見る
涙に濡れるのは冷たく白き花々
穏やかな光の世界から、夜が深まると、森は露に濡れます。ここまで読んできて、これって人の心を垣間見たときと同じだなと思ってしまうことがあります。
華やかに見える雰囲気に誘われて、その人の心の戸口に立ち、中の様子をうかがう。迎えられて入ってみると、落ち着くところもあるのだけれど、どこか寂しげなところもあることに気づく。
悲しげに濡れる花々と同じように、私たちも心の中に白き花があり、冷たく濡れることもあるよなあ。そう思ってしまうのです。
今回の訳のポイント
この詩が最大にロマンチックなポイントは、「光」の表現です。
The faery forest glimmered
Beneath an ivory moon,
The silver grasses shimmered
Against a faery tune.
妖精の森の煌めき
象牙の月に照らされて
銀色の下草が光に揺れる
響くのは妖精の歌声
glimmerは、弱い光がキラキラと明滅するイメージで、shimmerはチラチラと光が揺れるイメージになります。
-mmerという音のかたまりが、gli-やshi-という時の音の雰囲気と合わさって、日本語のオノマトペのように、音で雰囲気を伝えています。
蛍光灯や電球の一定の光に飽きたら、森に行くしかないですね!