第133回 川に行ったときに思い出す詩
子どものころ、川に行き、笹舟を作って流したことがありませんか。
笹の葉を破れないようにうまく折ったりして、舟にして川に流すと、どんぶらこどんぶらこと流れていき、やがて川の流れに飲まれて見えなくなる。そんな様子をずっと見守ったりしたことがあるかもしれません。
川に行くと、そんな幼きころの思い出とともに、ある詩を思い出します。
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Petals
Amy Lowell
Life is a stream
On which we strew
Petal by petal the flower of our heart;
The end lost in dream,
They float past our view,
We only watch their glad, early start.
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花びら
エイミー・ロウエル
人生は川の流れ
わたしたちは 浮かべてゆく
心に咲く花の 花びらの一枚一枚を
終わりは夢の中へと消えてゆく
眼の前を流れてゆく
素敵な始まりの瞬間しか見ない
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キラキラ光る川面を滑るように流れていく笹舟ならぬ、花びらの姿が目に浮かびませんか。
Life is a stream
On which we strew
Petal by petal the flower of our heart;
人生は川の流れ
わたしたちは 浮かべてゆく
心に咲く花の 花びらの一枚一枚を
川の流れのように、流れゆく時間が人生なのだとしたら、時の流れにあずけるのは、the flower of our heart「心に咲く花」の花びらの一枚一枚。
嬉しいことや悲しいこと。そんな心のかけらは、花びらのように時の間を漂います。心が感じた様々な感情は、ひとつひとつが花びらとして川に、思い出として時間に、その身をゆだねます。
The end lost in dream,
They float past our view,
We only watch their glad, early start.
終わりは夢の中へと消えてゆく
眼の前を流れてゆく
素敵な始まりの瞬間しか見ない
思い出と言うのは、遠ざかっていく川面の花びらのように、だんだんと姿かたちが見えなくなって、彼方に消えてゆきます。ときには、時の流れに飲みこまれて、見えなくなってしまいます。
嬉しくて嬉しくてたまらなかったとき、悲しくて悲しくて涙が止まらなかったとき、その瞬間は大きく心を動かされます。しかし、瞬間の積み重ねが人生であり、heir glad, early start「素敵な始まりの瞬間」がもっとも心に近く、その後は時の流れに身をまかせ、遠ざかっていくものなのです。
思い出は、いつか夢の中へ消えてゆくとしても、それでも花びらのように素敵な瞬間を重ねていきたいなと思います。
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今回の訳のポイント
この詩の最も難しい箇所は、the flower of our heart「心に咲く花」というフレーズです。
Life is a stream
On which we strew
Petal by petal the flower of our heart;
人生は川の流れ
わたしたちは 浮かべてゆく
心に咲く花の 花びらの一枚一枚を
of は、「~の」と訳すことになっていますが、もともと「~からの」という意味があり、由来を指します。例えば、源義経が「みなもと『の』よしつね」であるのと同じです。
「心の花」という日本語にしてしまうと、少し味気ない気もします。心が感じた感情は花となり、その花びらのひとつひとつが思い出となり、時の流れを漂ってゆく。
それを考えると、「心に咲く花」としていいのではないか!川辺の岩に腰掛け、流れをボーっと見ていたら、そう思いました。
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