第132回 誰かのためにがんばるときに思い出す詩
自分のためでなく、誰かのためにがんばるときに、信じられないくらいの馬鹿力が発揮されるときがあります。
さっきまでボーッとしていたのが、他人の人生に触れて、何か内から湧き上がるエネルギーを与えてくれることがあります。
そんなときに思い出す詩があります。
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Tavern
Edna St. Vincent Millay
I’ll keep a little tavern
Below the high hill’s crest,
Wherein all grey-eyed people
May set them down and rest.
There shall be plates a-plenty,
And mugs to melt the chill
Of all the grey-eyed people
Who happen up the hill.
There sound will sleep the traveller,
And dream his journey’s end,
But I will rouse at midnight
The falling fire to tend.
Aye, ‘tis a curious fancy—
But all the good I know
Was taught me out of two grey eyes
A long time ago.
*****
宿屋
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ
小さな宿屋を開こうかな
高い山 その頂の麓
灰色の目をした人たちが
腰を下ろし休むところ
お腹いっぱいになる料理と
身体を温める飲み物
灰色の目をした人たちが
山を目指してやって来る
旅人は深い眠りの中で
旅の終わりを夢見る
わたしは夜中に起きて
火を絶やさぬよう見守る
あ、これはただの夢物語なんだけど
どの素敵な物語も
灰色の目をした人たちが教えてくれたの
ずっとずっと昔に
*****
どうですか!冷え冷えとした夕闇の中に、ぽっと灯る暖かな宿屋の明かりがイメージできませんか?
There shall be plates a-plenty,
And mugs to melt the chill
Of all the grey-eyed people
Who happen up the hill.
お腹いっぱいになる料理と
身体を温める飲み物
灰色の目をした人たちが
山を目指してやって来る
ひとは誰でも、叶えたい夢があります。それが大きいものであれ、小さいものであれ、自分なりのきっかけとそこに至る物語があるものです。
しかし、往々にして、純粋に自分一人の力だけでは成し遂げるのが難しいものです。そんなときに有形無形の支えというのがあって、一歩ずつ頂きへと近づいて行けます。
There sound will sleep the traveller,
And dream his journey’s end,
But I will rouse at midnight
The falling fire to tend.
旅人は深い眠りの中で
旅の終わりを夢見る
わたしは夜中に起きて
火を絶やさぬよう見守る
「夜中に起きて、火を絶やさぬように見守る」というのは、相手を支える働きを、相手に見えないところでするということなわけで、これは何か大きなことでなくとも、わたしたちが日々行っていることだなと、感じます。
病室のベッドの横に一晩中付き添いながら、その人の生きたいという希望に寄り添ったり、大事なイベントを控える子どものために、せっかくだからと、遅くまでかかって特別なお弁当をこしらえたり。
Aye, ‘tis a curious fancy—
But all the good I know
Was taught me out of two grey eyes
A long time ago.
あ、これはただの夢物語なんだけど
どの素敵な物語も
灰色の目をした人たちが教えてくれたの
ずっとずっと昔に
誰かが語ってくれる物語に耳を傾けて、自分の知らなかった世界を知り、その人を突き動かす熱き思いに触れる。そんな出会いを重ねて、わたしたちは何人分もの人生を生きていきます。そうして味わう人生の温かさは、きっと宿屋と同じように温もりに満ちたものなのだろうと思います。
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今回の訳のポイント
この詩に繰り返し登場するのが、grey-eyed people「灰色の目をした人たち」です。
I’ll keep a little tavern
Below the high hill’s crest,
Wherein all grey-eyed people
May set them down and rest.
小さな宿屋を開こうかな
高い山 その頂の麓
灰色の目をした人たちが
腰を下ろし休むところ
灰色の目をした人は、地球上の全人口のうち1%にも満たないと言われます。こうしたことから、昔から、特別な人たちとして描かれることが少なくありませんでした。
特別な人、そう色眼鏡で見られてしまうわけですが、ひとりの人間として、それぞれ心に暖めている夢があり、人生の物語があります。
そこに寄り添い支える、多くの人にとっての宿屋のような人間でいたいなと思います。
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