第130回 気の置けない人に出会ったときに思い出す詩
気の置けない間柄の友人や仲間、パートナーは、人生を支えてくれる貴重な存在です。
お互いの人生の浮き沈みを見守り、必要なときには手を差し伸べる。そういう人たちとの関係性について考えるときに思い出す詩があります。
*****
Moods
Sara Teasdale
I am the still rain falling,
Too tired for singing mirth—
Oh, be the green fields calling,
Oh, be for me the earth!
I am the brown bird pining
To leave the nest and fly—
Oh, be the fresh cloud shining,
Oh, be for me the sky!
*****
きもち
サラ・ティーズデイル
わたしはしとしと降る雨
楽しい歌はもう歌いたくない
わたしを受け止める草原でいてね!
わたしの大地でいてね!
わたしはぴよぴよ鳴く小鳥
巣から飛び立ちたい
光を浴びる真っ白な雲でいてね!
わたしの空でいてね!
*****
どうですか!お互いに気を遣わずに、ありのままの自分で向き合える関係性!
I am the still rain falling,
Too tired for singing mirth—
わたしはしとしと降る雨
楽しい歌はもう歌いたくない
人生は、いつもバラ色、いつも快晴とはいきません。ときには、the still rain falling「しとしと降る雨」のように、心の晴れない日が続くこともあります。そんなときは、Too tired for singing mirth—「楽しい歌はもう歌いたくない」と思ってしまったりもするものです。
Oh, be the green fields calling,
Oh, be for me the earth!
わたしを受け止める草原でいてね!
わたしの大地でいてね!
しとしと降る雨のように、涙がこぼれてしまう日々。雨を受け止める大地のように、涙を受け止めてくれる人がそばにいたら、涙がこぼれてしまうような気持ちを、理解してくれる人がそばにいたら、また明日も生きていけるものです。
気の置けない間柄の人たちは、互いの不幸を心底悲しがったり、互いの幸せを心から喜び合うことができます。お互いのことをよくわかっているので、泣いたり笑ったり、どんなときも自然体の自分でいられるのです。
I am the brown bird pining
To leave the nest and fly—
わたしはぴよぴよ鳴く小鳥
巣から飛び立ちたい
気の置けない間柄、その特徴は、何よりも、お互いの幸せを願うこと。夢を抱いて飛び立とうとするとき、未知なる挑戦に踏み出そうとするとき、応援してくれる人がそばにいたら、失敗を恐れずにジャンプできるのです。
Oh, be the fresh cloud shining,
Oh, be for me the sky!
光を浴びる真っ白な雲でいてね!
わたしの空でいてね!
信頼できて、お互いの違いも認めていて、それぞれの幸せを願っている。それは、空のように大きな心。馴染みの関係だから心底安心できて、なおかつ、the fresh cloud shining「光を浴びる真っ白な雲」のように、いつも新鮮で新しい何かを、自分の人生に持ち込んでくれる。
自由に、自分らしく、思いのままに生きられたらと誰もが願います。うまくいかないときもあるけれど、そんな自分が、恐れずに羽ばたけるのも、人生を共にする仲間がいるからです。
そんな人たちに、感謝と尊敬を込めて、伝えたいのは、Oh, be for me the sky!「わたしの空でいてね!」という言葉になるのではないでしょうか。
*****
今回の訳のポイント
この詩は、日本語的発想に近い英語だなという印象があります。
Oh, be the fresh cloud shining,
Oh, be for me the sky!
光を浴びる真っ白な雲でいてね!
わたしの空でいてね!
この箇所が、日本人がイメージする「詩」の雰囲気に近いと感じるんです。というのも、「わたしにとっての空でいて」というフレーズでは、「人=空」となっていますが、これは現実的にはあり得ないわけで、英語の発想だと、もう少し説明的になります。
つまり、「わたしの空でいてね」が日本語的だとするなら、英語では「わたしにとって空のような存在でいてね」としたいなという感覚です。
日本語では、論理性を無視して、表現の飛躍をすることが比較的多いです。そうしたギャップが原因で、英語の文を組み立てることに苦労する日本人が多いようです。
そんなことを考えていると、気の置けない友人たちは、お互いの価値観の違いが分かっていて、考え方がどんなに違っていても、ずっと話し続けることができる存在だなと。ずっと一緒にいても全く疲れない、そんな奇跡のような出会いのひとつひとつに感謝しないといけないなと思います。