第128回 将来に不安を感じるときに思い出す詩
過去、現在、未来。
大切すぎる過去を抱えて、どう未来に向かえばいいのか。
たとえば、愛着があって捨てられない服。それも過去の象徴と言えるかもしれません。
大切なものを失いそうになったとき、手放さなくいけなくなったとき。過去は過去で大切だけど、将来もはっきりと見通せるわけでもないからと、不安があるとき。そんなときに思い出す詩があります。
着古した大好きな服を思い浮かべながら、読んでみてください!
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The Past
Ella Wheeler Wilcox
I fling the past behind me, like a robe
Worn threadbare at the seams, and out of date.
I have outgrown it. Wherefore should I weep
And dwell upon its beauty, and its dyes
Of oriental splendor, or complain
That I must needs discard it? I can weave
Upon the shuttles of the future years
A fabric far more durable. Subdued,
It may be, in the blending of its hues,
Where somber shades commingle, yet the gleam
Of golden warp shall shoot it through and through,
While over all a fadeless luster lies,
And starred with gems made out of crystalled tears,
My new robe shall be richer than the old.
*****
過去
エラ・ウィーラー・ウィルコックス
過去はもう棄て去ってしまおう
縫い目がほつれた服のように もう古臭いし
もう自分は大きくなってしまったし 泣くべきなのかな
きれいだったな いい染めだったな
オリエンタル風の魅力があったなって それとも
棄て去らなきゃいけないことを嘆くべきなのかな
でも 未来という杼(ひ)で織ればいいんだよね
もっとずっと強靭な織物を 派手ではないかもしれないけど
色は混じり合うし
控えめな色が重なり合うものだけれど でも光り輝く
金色の経糸(たていと)に何度も往復して織り上げていく
そうやって 褪せることのない光沢が宿る
こぼす涙は宝石となって星の輝きを纏う
そうやって わたしの未来という服を
もっとずっと素晴らしいものにしよう
*****
どうですか!手にギュッと握った服が、涙でびしょびしょになっていませんか!
自分にとって大切な過去はもう置いていこう、未来に向かおう。そんな時の感情をこんなにも素敵な言葉で表現してくれるなんて!
I fling the past behind me, like a robe
Worn threadbare at the seams, and out of date.
過去はもう棄て去ってしまおう
縫い目がほつれた服のように もう古臭いし
ボロボロになっても古臭くても、愛着がある服は捨てられないものです。過去に出会った人や思い出も、同じように大切だから忘れることもできないし、その記憶が消えることのないように、いつまでもしがみついていたいものです。
そのように過去への思いが胸いっぱいになったところで、詩は未来に目を向けさせてくれます。
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That I must needs discard it? I can weave
Upon the shuttles of the future years
A fabric far more durable. Subdued,
棄て去らなきゃいけないことを嘆くべきなのかな
でも 未来という杼(ひ)で織ればいいんだよね
もっとずっと強靭な織物を 派手ではないかもしれないけど
未来はこれから作っていくもの。それは、織物。杼(ひ)を往復させて織りあげていく。そして、過去よりも、現在よりも、もっと強靭な未来を作りあげていく。
未来は作り手である自分自身に委ねられていると言われますが、杼(ひ)を往復させて緯糸(よこいと)を通すように、日々を重ねていく。その一日一日は決して派手なものではないかもしれません。
Where somber shades commingle, yet the gleam
Of golden warp shall shoot it through and through,
While over all a fadeless luster lies,
控えめな色が重なり合うものだけれど でも光り輝く
金色の経糸(たていと)に何度も往復して織り上げていく
そうやって 褪せることのない光沢が宿る
そんな控えめな毎日を重ねた先に、未来という織物が織りあがっていきます。色を重ねていくうちに、a fadeless luster lies「褪せることのない光沢が宿る」と思えば、未来を信じて進んでいいのかもしれないと思えてきます。
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今回の訳のポイント
この詩がもっともグッとくるのは、過去に対する甘酸っぱい思いが詰まった、この一行ではないでしょうか。
I have outgrown it. Wherefore should I weep
もう自分は大きくなってしまったし 泣くべきなのかな
過去を棄て去るのは、過去が駄目なものになったからではありません。outgrown「それを超えるほどに自分が成長した」からなのです。out-が表すとおり、「超えて」しまうのです。
昔好きだった服を久しぶりに着てみたら、何だか子どもっぽくて今の自分に似合わない。それは成長の証。
久しぶりに会った昔の友人と話が合わなくて気まずい。それも成長の証です。自分は歳を重ねて、さまざまな経験を積み、変化していく。そうすると、大切な過去は段々と置き去りになっていく。
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And starred with gems made out of crystalled tears,
My new robe shall be richer than the old.
こぼす涙は宝石となって星の輝きを纏う
そうやって わたしの未来という服を
もっとずっと素晴らしいものにしよう
最後がまた心に響きますよね。star「星を散りばめる」、gem「宝石」、crystal「結晶」が、未来の輝きを象徴しています。
もちろん未来もいいことばかりではないかもしれない。また涙を流すこともあるかもしれない。
それでも、And starred with gems made out of crystalled tears「こぼす涙は宝石となって星の輝きを纏う」のだから、好きなだけ、涙も流してもいいかもしれない。
そう思えたら、過去よりも、現在よりも、もっとずっと素晴らしい未来を作ってみようという、やる気と勇気が湧いてくるはずです。
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