第123回 アイデアが出てこないときに思い出す詩
課題解決には、アイデアが必要です。
昨日までと同じやり方で上手くいかないなら、何か別の可能性を探る必要が生じます。
そんなときに思い出す詩があります。
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The Unexplorer
Edna St. Vincent Millay
There was a road ran past our house
Too lovely to explore.
I asked my mother once – she said
That if you followed where it led
It brought you to the milk-man’s door.
(That’s why I have not traveled more.)
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探検・しない
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ
家の前の通りは
とても素敵であちこち行ってみたいと思っていた
ある日お母さんに聞いたら こう言われた
行けるところまで行ってみなさい
いつもの牛乳配達屋さんの家に着くから
(だから行くのはやめたの)
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ゴールから逆算して、その行程をひとつひとつ辿っていく方法もあれば、拡散的にいろいろと可能性を探ってみてから最適解を見出すという、ニ種類の課題解決の道筋があります。
子どもにとっては、家の前の通りは可能性に満ちています。誰かの家の裏庭や、街路樹に作られた鳥の巣や、路地の傍らを這うミミズなどなど、驚きと発見があるのです。
しかし、お母さんにとっては牛乳配達屋さんの家に向かうための一本道でしかありません。通りは、そこにつなぐ役割しか考えられていません。
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これと同じように、ゴールのことだけを考えていると、その過程で見つかる可能性を見逃す場合があります。ときには、一直線に目標に向かうのでない冒険をしてみて、思いもしなかった気づきを得る。それが、課題解決に役立つこともあるのです。
行き詰まりを越えて、アイデアのジャンプするには、こんな角度で考えてもいいのかな、こういうことは一旦無視して考えていいのかな、こういう点をもっと掘り下げてみようかな、と冒険してみると、意外と面白いアイデアが浮かんだりするものなのです。
行き詰ったり、悶々としたり、そんなときに思うんです。牛乳配達屋さんのことばかり考えてしまっていたなと。この詩を読むたびに、子どものように、すぐ目の前の通りをワクワクした心の目で見ていないといけないなと。可能性に心を開いておかなければいけないなと。
今回の訳のポイント
Explorerとは「探検家」のことを言います。しかし、この詩のタイトルは “The Unexplorer” となっています。 “Un−” が付いて否定されています。「探検・しない」というのは、どういう意味でしょうか。
Explore「探検する」とは、厳密には、目指す目的地があってそこに辿り着くことが目的となります。一方に、Adventure「冒険」という言葉があります。Adventure「冒険」は、目的地に辿り着くことが目的ではなく、そのプロセスが目的になります。
例えば、北極点という目標地点に到達すること自体は探検かもしれませんが、それを単独で徒歩で向かうという試みになると、冒険になります。
この詩で、家の前の通りは、お母さんにとっては、牛乳配達屋さんの家という目的地につなぐだけの存在です。しかし、目的地でなくそのプロセスに目を向けると、それは冒険となり、探検ではなくなります。そうすると、The Unexplorer「探検・しない」ということになるのです。