第122回 かっこいい人に出会ったときに思い出す詩
かっこいい人に出会って、心が動かされることがあります。
見た目ではなく、生き様そのものがかっこいい人です。
かっこいい人の特徴って何だろうと考えていると、思い出す詩があります。
西部開拓時代、己の道を自ら切り拓こうとする、そんな男の背中を見守るつもりで、この詩を読んでみてください。
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The Arrow and the Song
Henry Wadsworth Longfellow
I shot an arrow into the air,
It fell to earth, I knew not where;
For, so swiftly it flew, the sight
Could not follow it in its flight.
I breathed a song into the air,
It fell to earth, I knew not where;
For who has sight so keen and strong,
That it can follow the flight of song?
Long, long afterward, in an oak
I found the arrow, still unbroke;
And the song, from beginning to end,
I found again in the heart of a friend.
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矢と歌と
ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー
俺は空に矢を放った
その矢は この地上のどこか
どこかに突き刺さった 俺の知らない土地さ
なぜって 目にも留まらぬ速さで
飛んでいくからさ
俺は空に歌を口ずさんだ
その歌は この地上のどこか
どこかに突き刺さった 俺の知らない土地さ
なぜって だれがわざわざ追いかけるんだ
空に放たれた俺の歌を
それからずっと後のある日 俺は見つけた
あの日のままの姿で オークの木に刺さった俺の矢を
俺の歌はどうなったか それは最初からずっと
俺のなじみの友 その心に刺さっていたのさ
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どうですか!これぞ男が憧れる、かっこいい男のロマン!
I shot an arrow into the air,
It fell to earth, I knew not where;
俺は空に矢を放った
その矢は この地上のどこか
どこかに突き刺さった 俺の知らない土地さ
かっこいい男は、行動の結果を気にして尻込みしたりしません。矢は放つためにある、とばかりに、その行く末を気にする素振りもなく、矢を空に向かって放ちます。
好きなものは好きだ。やってみたいことはやってみればいい。失敗したなら恥のひとつもかけばいい。
そんな調子で、真にかっこいい男は、かっこ悪いことを恐れません。大空に自分の人生を投げ出すかのように、矢を放ちます。
I breathed a song into the air,
It fell to earth, I knew not where;
俺は空に歌を口ずさんだ
その歌は この地上のどこか
どこかに突き刺さった 俺の知らない土地さ
かっこいい男は名声を求めてあくせくしたりしません。誰かの注目を浴びるよう計算して歌を作ったりしません。歌いたい歌があれば歌うだけです。人からの評価など気にしないので、かっこつけたりせずに、ありのままの自分をさらけ出すことを恐れません。
良いと思ったものはただ純粋に良いと認めるし、世の中には美しいものも醜いものもあることを知っています。そして、思いが溢れて、小っ恥ずかしい歌のひとつでもできれば、ただ風にあずけるだけです。
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Long, long afterward, in an oak
I found the arrow, still unbroke;
それからずっと後のある日 俺は見つけた
あの日のままの姿で オークの木に刺さった俺の矢を
かっこいい男は、行き先を決めて行程をたどるような旅はしません。「行き先?それは行ったことがないところさ。」そんな調子で、旅に出ます。
行けるところまで行ってみて、そこで大切な何かに出会うかもしれない。自分がいつか放った矢が刺さったオークの木に出会うかもしれない。そうやって、行ってみた先で出会う驚きや奇跡に心奪われるだけでいいのです。
And the song, from beginning to end,
I found again in the heart of a friend.
俺の歌はどうなったか それは最初からずっと
俺のなじみの友 その心に刺さっていたのさ
かっこいい男は、己の道を生きているように見えて、実は、他人の心の痛みを誰よりも分かっています。歌った歌は、自分の思いではなくて、誰かの思いを代弁したもので、声を上げられない人のために、その言霊を歌ったものなのです。だからこそ、人の心に刺さるのです。
困っていれば助け、泣いていれば涙を拭いてやり、歩けなければ背負ってやり、落ちこんでいれば道化を演じてやる。かっこいい男は、そうやって、心に届く歌を、生き様として示しているのです。
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今回の訳のポイント
この詩が最高にかっこいいのは、この4行があるからではないでしょうか。かっこいい男の真髄を表しています。
Long, long afterward, in an oak
I found the arrow, still unbroke;
And the song, from beginning to end,
I found again in the heart of a friend.
それからずっと後のある日 俺は見つけた
あの日のままの姿で オークの木に刺さった俺の矢を
俺の歌はどうなったか それは最初からずっと
俺のなじみの友 その心に刺さっていたのさ
音の面で言うと、Oak「オークの木」と unbroke「あの日のままの姿で」で韻を踏んでいます。しかし、Oak が選ばれたのは、ただ音を合わせるためではありません。
Oak「オークの木」は、そのずっしりと太い幹の様子から、強さと知恵の象徴とされます。欧米の歴史や生活に深く根づいていて、樹齢が1000年を超えるようなオークの木もあり、長寿の象徴ともされて、神聖な趣がある木なのです。日本人が竹林を見て、緑色に染まる空間に直線的な美が直立している様子に、神聖なものを感じるのに似ています。
オークの木の存在感のごとく、人生を受け止めるだけの幅を持った、がっしりした男の肩。そして、奥底にあるのは、友への思い。かっこいいと呼ばずして、何と呼べばいいでしょう!
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