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第121回 夏の街で日陰を見つけたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

夏の街に出かけると、コンクリートの街路とビルに囲まれ、暑さが一層厳しく感じられます。

そんなときに、陽射しと暑さを避ける手立てを探すのですが、ふと木陰を見つけてホッとしたときに思い出す詩があります。

街路樹の木陰に立って、頭上を覆う緑の葉の間からこぼれる木漏れ日に目を細めるイメージで、読んでみてください。

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City Trees
Edna St. Vincent Millay

The trees along this city street,
Save for the traffic and the trains,
Would make a sound as thin and sweet
As trees in country lanes.

And people standing in their shade
Out of a shower, undoubtedly
Would hear such music as is made
Upon a country tree.

Oh, little leaves that are so dumb
Against the shrieking city air,
I watch you when the wind has come,—
I know what sound is there.

*****

街路樹
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ

並木道
車や列車じゃなくて
木々が織りなす やわらかでやさしいそよぎ
田舎道と同じだね

木陰に立つひとたち
雨宿りしていると きっと聴こえるね
木の葉と雨粒が奏でる音楽が
田舎に立つ木も同じだね

そう言えば、小さな木の葉は無口だね
それに比べて街はいつだって金切り声をあげている
風が吹いてきたら 君のほうを見るよ
どんな音が聴こえてくるか わかっているよ

*****

この詩が素敵なのは、都会の街路樹に憩いながら、田舎の森や山の木と同じ安らぎを見出すという点です。

都会では、キーキーと金切り声をあげて、車や列車が行き交います。しかし、その同じ空間にあって、木々はそよそよとその葉を風に揺らします。

そのやさしいそよぎは、田舎道に立つ木々と同じなのです。

*****

夕立が降って、街路樹の下で雨宿りをしていると、空から降ってきた雨粒が、木の葉に落ちて、パラパラ、ボツボツ、ザーザーと音楽を奏でます。

そう言えば、雨宿りをこうやって楽しんでいた子供時代があったなと。雨の匂いや、びしゃびしゃの靴や、家に着くなり濡れた服を脱がしてタオルで拭いてくれた日のことを、素朴な日々のことを、危うく忘れかけていたなと。

木々と雨粒がありさえすれば、都会の木も田舎の木も違いはありません。時空を超えて、木と雨は、いつも変わらない感覚を与えてくれるのです。

木々はしゃべりませんが、風が吹けば、またさらさらと葉を揺らしてわたしたちにささやいてくれる。山や森に出かけなくても、案外そばに素敵な友だちはいるのかもしれません。

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今回の訳のポイント

やさしくやわらかい詩のお手本のような言葉運びが、木漏れ日かそよ風のように心地よく響くこの詩ですが、終盤の “Oh” に悩みます。

Oh, little leaves that are so dumb
Against the shrieking city air,
そう言えば、小さな木の葉は無口だね
それに比べて街はいつだって金切り声をあげている

“Oh” なので、古風な詩歌風なら「ああ」とするのが定番ですが、ここでの「ああ」ってなんだろうと思うんです。

“Oh” がなくても良さそうにも思えるのですが、それぞれのパートの最初の一行を見ると、あることに気がつきます。

冒頭の「並木道」という木々の連なりから、「木陰に立つ人たち」という一本の木へ、そしてそこからさらにズームインして「小さな木の葉」へ、大きなものから小さなものへと視点が移動しています。

「小さな葉」も、ひとつひとつはどんなに小さくても、風の存在を気づかせてくれる。「並木道」のような大きな視点のほうが目立つので忘れがちだけど、「小さな葉」にも目を向けてあげないと。忘れそうだったけど忘れちゃいけない大切なことがある。

そんなときに、ふと漏れる言葉は、Oh「そう言えば」なのではないかと思います。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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