第117回 力不足だと感じるときに思い出す詩
人間誰しも完璧ではありません。
様々なことをうまくこなしつつも、やっぱり自分の力が足りなくてうまく行かないことも、人生にはあります。
そんなときに思い出す詩があります。
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Trees
Joyce Kilmer
I think that I shall never see
A poem lovely as a tree.
A tree whose hungry mouth is prest
Against the earth’s sweet flowing breast;
A tree that looks at God all day,
And lifts her leafy arms to pray;
A tree that may in Summer wear
A nest of robins in her hair;
Upon whose bosom snow has lain;
Who intimately lives with rain.
Poems are made by fools like me,
But only God can make a tree.
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木
ジョイス・キルマー
とてもじゃないけど
詩は 木ほど素敵なものじゃない
木は その飢えた口を
大地という温かなおっぱいに押しつける
木は 一日中神様を見上げる
祈るように葉っぱだらけの腕を伸ばす
夏になると駒鳥が
そのもじゃもじゃの髪に巣を作る
冬の雪はその胸元に積もる
雨は暮らしの一部になる
詩は 自分みたいなお馬鹿な人間が作る
木は 神様だけが作れる
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詩人は素晴らしい作品を世に送り出します。しかし、そんな人間の営みも、自然界の奇跡には到底かなわない。
自然への畏怖を感じさせる内容なのに、この詩がチャーミングなのは、擬人化された木!
木の根元は口で、枝は腕、もさもさとした葉は髪の毛。そう言われると、そこかしこに立つ木が、今にも動き出しそうに思えてきます。
夏も冬も、雨でも雪でもそこにいて、静かに確かに生命力を感じさせるところが素敵ですよね。
Poems are made by fools like me,
But only God can make a tree.
詩は 自分みたいなお馬鹿な人間が作る
木は 神様だけが作れる
そんな自然の造形は神様だけが作れるもので、人間にできることは詩を作ることぐらいしかない。人間である以上、大したことはできないのだから、ちょっとした力不足など悩むほどのことでないのかもしれない。
そう考えると、この詩の「●●は 木ほど素敵なものじゃない」に言葉をあてはめるだけで、だいたいのことは諦めがつく。自分にとっては、いつしか、そんな魔法の呪文になりました。
しかし、何よりも心を締め付けるのは、この素晴らしい詩の作者である、ジョイス・キルマーは第一次世界大戦に出征し命を落としてしまったという事実です。
木を造形できる神様も、素晴らしい才能をこの世にとどめられないなんて。しかし、残された言葉は生き続けるという真実も、この詩は教えてくれます。
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今回の訳のポイント
I think that I shall never see
A poem lovely as a tree.
とてもじゃないけど
詩は 木ほど素敵なものじゃない
詩の冒頭からセンスある言葉が爆発していますよね。treeは、seeやmeと韻を踏むのが定番で、言葉と音がシンプルだからこそ、スルスルとメッセージが伝わってきます。
耳に口に馴染みやすい。人々に愛される詩の特徴の一つです。
何よりも、こんなに素晴らしい詩を書いている本人が、「詩は木ほど素敵なものじゃない」と言い切ってしまうところに、グッときます。
一流の職人はまだまだ技術を磨きたいと言いますし、トップアスリートは常に改善点を見つけてトレーニングをします。
その意味で、常に力不足を認識している。力不足は、悲観すべき現実でなく、未来への可能性と言える。常に自分の力不足を感じられたら、それはそれで幸せなことかもしれないと思えてきます。
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