第116回 雨が続くと思い出す詩
梅雨の季節。
毎日のように雨が降り、じめじめしてきます。しとしと降る雨の音を聞きながら、ある詩のことを思い出します。
ものすごく短い詩で、「え、だから?」という詩なのですが、無理やり何かを感じ取ってみてください。
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Rain
Robert Louis Stevenson
The rain is raining all around,
It falls on field and tree,
It rains on the umbrellas here,
And on the ships at sea.
雨
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
どこもかしこも 雨
雨は降る 草原に木に
雨粒は この傘に
海をゆく船に
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えー、ただ「そこにもここにも雨が降っている」と言ってるだけじゃないか。そう自分も思っていたんです。
ところが、ある時ふと、もっと大きなストーリーを感じてしまってから、特別な詩になったんです。
たった4行ですが、まず映像的にダイナミックです。
抽象的で、具体的にどのような場所とも言わず、all around「どこもかしこも」という淡いイメージで始まり、filed「草原」という広い空間から、tree「木」という個別の存在に視点が移り、今度はtheumbrealls「傘」という目の前のものにフォーカスしていきます。
じゃあ、次はさらにフォーカスして、雨粒の一つ一つ!と思うと、まさかの海!
果てしない量の雨水で出来た海!誰かが「大きな水たまりじゃないか」と言った海!
自分の手の中にある傘を見て、遥か彼方の広大な海を思う。
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これって、世界のドキュメンタリーを見たときの感覚に近くないですか。
今あなたが着ているシャツは中国の工場に、革の鞄はバングラデシュの工場に、今、口に入れたタコはモーリタニアの海につながっているのだ。
今ここにあるものは、遠くの場所とつながっていて、大きなストーリーの果てにここにたどり着いたんだ。
考えてみると、わたしたちは子どもの頃から、お茶碗に残った米粒を見て、「お百姓さんに申し訳ないよ」と言われてきたのです。
お茶碗を覗き込んで、そのひと粒を箸でつまみ、口に運んだときの子どもの頃の心を、この詩は思い出させてくれるのです。
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今回の訳のポイント
この詩を見て、英語のtheの役割について考えざるを得ません。というか、ぜひ考えていただきたい!
theは、まず、読み手・聞き手にもそれが何であるかイメージできるものにつくというルールがあります。
It rains on the umbrellas here,
And on the ships at sea.
雨粒は この傘に
海をゆく船に
The umbrellas hereと言われると、今、目に入る傘のイメージです。眼前にあるのだから、それが何かイメージできます。
最後の行はどうでしょうか。
The shipsは、「海に浮かぶ船」と言われたときに、何となく頭に浮かぶ写真や絵画的なイメージがあるのではないでしょうか。微妙ですかね。イメージできるのであれば、theでオッケーということにしておきましょう!
最後にat seaがあります。なぜここにはtheがないのでしょうか。
冠詞がつくのは、それが何らかの形をもつということになります。しかし、ここではat seaとなっていて、海が形を持たないということになります。
これは、by bus「バスで」と似ています。これは、車両として「物体」のバスでなく、移動の「手段」としてのバスとなります。「手段」という概念そのものには、形はないので、by busとなり、同じように、海を「手段」として使うのであれば、at seaは「航行中」となるのです。
ということで、「雨が降っている」というだけの4行の詩だけで、こんなにも多くのことを考えることができる。お茶碗いっぱいのご飯を食べきって、「ごちそうさまでした」の気分ですね。
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