第111回 誰かの力になりたいときに思い出す詩
人生には胸を締めつけるような瞬間があります。
中でも、誰かを助けたくても、自分にはできることがないときの苦しさは、それが身近な家族であれ、遠くの誰かであれ、もどかしく辛いものがあります。
春爛漫の森で、岩に腰を下ろし、小川の流れを見ていると、そんな苦しみとともに、ある詩を思い出します。
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Spring Torrents
Sara Teasdale
WILL it always be like this until I am dead,
Every spring must I bear it all again
With the first red haze of the budding maple boughs,
And the first sweet-smelling rain?
Oh I am like a rock in the rising river
Where the flooded water breaks with a low call—
Like a rock that knows the cry of the waters
And cannot answer at all.
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春の川
サラ・ティーズデイル
死ぬまでずっとこんな感じ?
春が訪れるたび耐えなきゃいけないの?
メープルの枝先が赤く芽吹くころ
降る雨が甘い香りに包まれるころ
わたしは岩のように 激しい流れに身をさらす
湧き上がっては砕ける流れは 低くうなる
わたしは岩のように 川の声を聞いているのに
何も言ってあげられないの
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岩は川の流れの中にあって、川の一番そばで、その声を聞いています。
Oh I am like a rock in the rising river
わたしは岩のように 激しい流れに身をさらす
The rising river「激しい流れ」が水かさを増すように、激しい感情に翻弄されている人。
苦しむ人の声にならないうめきや、目に溜まった涙に気づいたり、その人の言葉に耳を傾け、ともに涙に濡れたり。
Where the flooded water breaks with a low call—
湧き上がっては砕ける流れは 低くうなる
激しい感情に襲われた人が自分の足元で嗚咽を漏らすように、苦しみに苛まれるその声は、a low call「低くうなる」ように心に響きます。しかし、何もできない自分は、激しい流れの中にいる岩でしかない。
Like a rock that knows the cry of the waters
And cannot answer at all.
わたしは岩のように 川の声を聞いているのに
何も言ってあげられないの
苦しむ人の姿を目の当たりにしているのに、岩のようにただそこにいることしかできず、他に何もできることがない。
そんな胸を締めつける瞬間を、こんなにもやさしく言葉にしてくれるなんて、涙が止まらなくなってしまいますよね。
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今回の訳のポイント
谷川の激しい流れを詠った詩と言えば、百人一首のこの和歌を思い出さずにいられません。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
(川の瀬の流れの速いところ 岩にせき止められ 激しい流れはふたつに分かれる
今は離れてしまったふたりだけど 流れがまたひとつになるように いつかまたひとつになろう)
岩にせき止められ二手に分かれる川の流れの話が、いつの間にか離れ離れになる二人の話になって、川も人もまた巡り合うという完璧な構成!
この和歌では「瀬をはやみ」と「滝川」という言葉で、谷川の激しい流れを描写しています。少ないキーワードで、激しい流れの全体像がイメージできます。
Oh I am like a rock in the rising river
Where the flooded water breaks with a low call—
わたしは岩のように 激しい流れに身をさらす
湧き上がっては砕ける流れは 低くうなる
そして、この詩でも、水かさを増し岩に砕ける川の流れは、ひとがぶつける激しい感情を、唸る水音は嗚咽ともうめきとも思えてきます。
今にもその感情と流れに飲み込まれてしまいそうに思えて、足と心がすくみませんか。
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