第110回 一日を無駄にしてしまったときに思い出す詩
生活や仕事の慌ただしさに、大事なことに時間とエネルギーを割けないときがあります。
ドタバタとしているうちに、一日が過ぎて、後悔する。
そんなときに思い出す詩があります。
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Spring
Edna St.Vincent Millay
To what purpose, April, do you return again?
Beauty is not enough.
You can no longer quiet me with the redness
Of little leaves opening stickily.
I know what I know.
The sun is hot on my neck as I observe
The spikes of the crocus.
The smell of the earth is good.
It is apparent that there is no death.
But what does that signify?
Not only under ground are the brains of men
Eaten by maggots.
Life in itself
Is nothing,
An empty cup, a flight of uncarpeted stairs.
It is not enough that yearly, down this hill,
April
Comes like an idiot, babbling and strewing flowers.
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春
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ
いったい何のために、四月、君は戻ってきたの?
綺麗だけじゃだめ
あたしは黙らないから 赤く
伸びた若葉
自分のことはよく分かってる
首は太陽に灼ける のぞきこんだ
クロッカスの尖った葉
土のいい匂い
死なんてないみたい
でもそれってどんな意味なんだろう
地面の下では人々の脳みそは
ウジ虫に食べられる
人生そのものは
何者でもない
空のコップ 絨毯を敷いていない階段
毎年丘を駆け下りてくる それだけじゃだめ
四月
君は花を辺り一面に咲かすけど バカみたいだよ
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季節がめぐり四月がまたやって来るように、一日一日もやって来ては去ってゆきます。
ボーッとしていても、草木は花を咲かせ、芽吹きを迎えますが、人にとっての人生という時間は、刻一刻と過ぎていきます。
かと言って、観念的に「生きる意味とは?」と言わないのが、詩の良いところです。この詩では、地に足がついた肌感覚を伝え、私たちに熱と匂いを感じさせます。
The sun is hot on my neck as I observe
The spikes of the crocus.
The smell of the earth is good.
首は太陽に灼ける のぞきこんだ
クロッカスの尖った葉
土のいい匂い
太陽の熱を肌に感じること、草の葉が伸びること、土の匂いを嗅ぐこと。「生きる」という言葉は使わずに、生きるとはどういうことなのか、伝わってきますよね。
そして、生きるとはどういうことなのかについて、核心となるメッセージが続きます。
Life in itself
Is nothing,
人生そのものは
何者でもない
人生それ自体なにか特別なものなのではないとは、つまり、人生そのものは時間でしかなく、それをどう生きるかが問題であるのだろうと。
そうすると、やる気なくボーッと過ごしてしまった時間の尊さを痛感します。貴重な時間を自分はなんて無駄にしてしまったのだろうか。そんな後悔に襲われます。
今度から、ボーッと時間を無駄にしそうになったら、この2行を思い出すだけで、どんな強いコーヒーよりも、心を目覚めさせてくれそうです。
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今回の訳のポイント
この詩の核心的メッセージは、人生という枠組みそのものには意味はなく、それをどう生きるかが問題であるということなのですが、この2行は強烈ですよね。
Life in itself
Is nothing,
人生そのものは
何者でもない
in itself「それ自体では」という言葉の意味するところを、かっこいい言葉を並べてあーだこーだと説明しないのが、この詩の素敵なところです。
An empty cup, a flight of uncarpeted stairs
空のコップ 絨毯を敷いていない階段
コップそのものは何者でもなく、飲み物を入れてはじめて意味を持ちます。階段も、絨毯を敷いていないと、意味がないと言います。
こうして身の回りにあるものを描くことで、「人生そのものは何者でもない」ということがどういうことか、よりくっきりと輪郭をもって伝わってくるのです。
言葉をあえてぶつ切りにすることで、ダイレクトに言葉の一つ一つが心に届く。詩のいいところですね。
そして、思うのです。人生というan empty cup「空のコップ」を、自分は何で満たそうかと。
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