第107回 タイムマシーンが欲しくなったときに思い出す詩
タイムマシーンがあれば、あの時あの場所へ、時空を超えて旅することができます。
川べりを歩きながら、水面を滑るあひるを見ていたら、タイムマシーンが欲しくなりました。
タイムマシーンとあひるに何の関係があるのか、この詩を読んでみてください。
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Four Ducks on a Pond
William Allingham
Four ducks on a pond,
A grass-bank beyond,
A blue sky of spring,
White clouds on the wing;
What a little thing
To remember for years-
To remember with tears!
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池に四羽のあひる
ウィリアム・アリンガム
池に四羽のあひる
草の堤はどこまでも
春の青空
流れゆく白雲
ささやかなことだけど
いつまでも忘れない
思い出に目が潤む
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池や川には、だいたいあひるがいます。
その堤は草が茂っていて、見上げる春の空は青く、白い雲が浮かんでいます。
うららかな春の水辺を見ていると、昔旅したパリ郊外のセーヌ川沿いの景色を思い出します。
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郊外の町へ出かけようと、朝早くにパリを出て列車に乗っていたら、線路はセーヌ川と並行していきました。パリの都市圏を出ると、そこはのどかな田舎の景色が広がっていて、朝靄に川面は霞み、川沿いの背の高い草の茂みと相まって、幻想的な雰囲気が漂っていました。
ガタゴトと揺れて進む列車が一体どこに向かっているのか分からなくなるような、不思議な感覚を今でも覚えています。
朝日が昇っていって、うららかな空気に包まれると、今度はあたり一面が淡いパステルカラーに包まれて、貧相な郊外行き列車も、夢の乗り物に思えたものです。
今でも、電車に揺られながら目を閉じると、ふとその時と同じような感覚になることがあります。目を閉じているうちに、時間も空間も超えて、この電車はあの線路につながったりしないかな、そう思ったりします。
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この詩で、目に映るのは、あひる、草の堤、青い空に白い雲。それだけ。でも、それは思い出を甦らせるのには十分です。
この空はつながっていて、あの人も同じように空を見ているのかな。そう言えば、あの公園の池にもあひるがいたっけ。あの人は今も散歩したりしているのかな。
池のあひるを見ただけで、心のタイムマシーンに乗って行ける。そんな詩を持っているだけで、いつでも瞳を涙でウルウルさせることができます。
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今回の詩のポイント
あひるで始まるこの詩のハイライトは、最後の2行です。
To remember for years-
To remember with tears!
いつまでも忘れない
思い出に目が潤む
どちらもremember「おぼえている」という言葉があるのですが、「心に残っている」ということを、「忘れない」とも、「思い出に残る」とも言えるだろうと思います。
それにしても、こんなに素敵な詩なのに、どうしてFour Ducks on a Pond「池に四羽のあひる」というタイトルにしたのだろか、そんなにあひるってそこここにいるものだろうか。
そう思いながら、春のうららの川べりを散歩していたら、はい、いました。気持ちよさそうに水浴びをするあひるの群れが。