第105回 アーティストになりたいと思ったときに思い出す詩
アーティストは、その形式は何であれ、何らかの作品を世に残します。
その人の生きた証とも言える爪痕を、時代に刻みます。
そんなアーティストの特権をうらやましく思うときに思い出す詩があります。
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The Poets light but Lamps —
Emily Dickinson
The Poets light but Lamps —
Themselves — go out —
The Wicks they stimulate —
If vital Light
Inhere as do the Suns —
Each Age a Lens
Disseminating their
Circumference —
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詩人はランプに火をともすだけ
エミリー・ディキンソン
詩人はランプに火をともすだけ
自らは—いなくなる—
芯を熱くする
もし生命の光が
燃える星々のように宿るなら
時代がレンズとなって
押し広げてゆく
光の波紋を
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詩人自身は、いつかこの世を去るとしても、その人が灯したランプは詩として、いつもその輝きを放ち続けます。
ランプの燃える芯は、燃える恒星のごとく、無尽蔵のエネルギーを放つ命の輝き。
詩人が灯した光というメッセージは、時代ごとに違ったレンズを通して読み取られ、水面に広がる波紋のように、作者である詩人個人から、外の世界へと広がっていく。
このように、作品は発表された瞬間から作者の手を離れて、読者・観衆のものとなり様々に受け止められていきます。
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ここまで考えてみて、ふと、「生きること」そのものが「詩」だなと思ったりします。
自分という肉体は境界線で、この皮膚以上に外に広がってはいきませんが、自分が生き、出会う人がいて、そこで何らかの関係を結ぶとき、自分という「詩」は誰かに読まれて、波紋を広げているのだなと。
ふとした会話をきっかけに、昨日までは何とも思っていなかった問題が自分事になったり、昨日までは理解できなかった言葉がストンと腹落ちしたりすること。それは、昨日までは気にも留めなかった歌詞がドスンと心に響いたり、昨日までは見たこともなかった映画が胸をざわつかせたりすることと同じだなと。
そうやって、人は光の波紋を広げていて、その意味では、誰もが生きている限り、アーティストなのだと思えて来ます。
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今回の訳のポイント
The Poets light but Lamps —「詩人はランプをともすだけ」という冒頭の一行が、最高にかっこいいこの詩ですが、but「だけ」という簡潔な語が、文を一層シャープに引き締めています。
まるで長老が残した箴言のような厳かさがありますが、最後の一言、Circumference —「光の波紋を」という映像的な言葉によって、どこか淡い光彩の映像作品のような印象を心に残します。
自分という人間はいつかいなくなっても、生きたことの輝きが作品として残ると考えるのは素敵ですが、生きること=詩と考えると、感動に身震いがします。
詩は、韻律によってある程度一定のリズムを保ちながらも、かたちや意味が変化していくダイナミックさが魅力で、それは生きることも同じで、同じような毎日を送るように見えて、日々様々な変化も経験します。
わたしたちは、「自分」という詩を、日々一行一行書き足し続けていて、それが生きる営みなのだ。そんな気持ちで今日を生きたいと思います。
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