第103回 遠くにいる人に思いを馳せるときに思い出す詩
そばにいない人のことが心配でたまらない時があります。
その人のことを考えていると、その人の顔や表情だけでなく、声や息遣いまでイメージできることがあります。
そんなときに思い出す詩があります。
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The Fisherman’s Wife,
Amy Lowell
When I am alone,
The wind in the pine-trees
Is like the shuffling of waves
Upon the wooden sides of a boat.
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漁師の妻
エイミー・ロウエル
ひとり聞く
松の木にそよぐ風の音
それはざわめく波
舟の横腹を撫でていく
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漁師が海に出ている間、陸(おか)にいる妻は、夫の帰りを待つ。
妻にとっては、浜辺に並ぶ松の木々を抜けてさざめく風の音は、夫の舟に打ちつける波のざわめきにも聴こえる。
そんな漁師の妻の思いの強さと言えば、世界中の漁師町にまつわる様々な話を思い出します。
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アイルランドのアラン島では、漁師の妻が、夫に不慮の事故があっても身元が分かるように、各家庭の柄の手編みのセーターを編んだという話があります。
ベネチアのブラーノ島には、霧の中帰ってくる漁師たちが、自分の家をすぐに判別できるように、それぞれ家の壁を色鮮やかに塗ったという話があります。
待つ者と帰る者がいるのが漁師町ですが、広い意味で、遠くにいる人の安否を心配するときに、離れていてもどこかつながっている感覚を覚えたりするものです。
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現代では、情報通信によって、世界は一層容易にお互いに繋がり合えるようになっています。しかし、今この瞬間にお互いの置かれている状況の落差に、愕然とすることもあります。
心ではどんなにつながっていても、陸と海の状況があまりにも違うように、つながっているようでつながっていない。この詩を読むと、そんな不安も押し寄せてくるのです。
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今回の訳のポイント
この詩の素晴らしいところは、「いつも君のことを思っている」だとか「今、君はどこで何をしているの」だとか「どこにいても君のことを愛している」といった言葉を一切使わずに、その思いを伝えている点です。
陸と海の情景を描いているだけで、感情を表す言葉がどこにもないのに、その感情を感じ取れる。
音楽を聞いたときや、一枚の写真を見たときに感じる感動と同じように、芸術のもつ力なのかなと思います。
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