ENGLISH LEARNING

第100回 一日がんばったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

がんばる。

最後まであきらめない。納得いくまでやり抜く。

そうやって、わたしたちは一日一日を懸命に生きます。

一日の終わりに、やっと一息ついてふと物思いにふけるときに、思い出す詩があります。

*****

All day I’ve toiled, but not with pain,
Emily Brontë

All day I’ve toiled but not with pain
In learning’s golden mine
And now at eventide again
The moonbeams softly shine

There is no snow upon the ground
No frost on wind or wave
The south wind blew with gentlest sound
And broke their icy grave

Tis sweet to wander here at night
To watch the winter die
With heart as summer sunshine light
And warm as summer’s sky

O may I never lose the peace
That lulls me gently now
Though time should change my youthful face
And years should shade my brow

True to myself and true to all
May I be healthful still
And turn away from passion’s call
And curb my own wild will

*****

一日じゅう わたしは 苦痛もなく
エミリー・ブロンテ

一日じゅう わたしは 苦痛もなく
学問の金鉱で こつこつと 働いた
そして いまふたたび 夕暮れが訪れて
月が 優しく 輝いている

大地に 雪はなく
風も波も 霜のような冷たさはなく
南風が やわらかに吹き
氷の墓を 融かしていった

夜 あたりを彷徨い歩くのは素敵なこと
冬が去りゆくのを見るのも素敵なこと
夏の太陽のような心を胸に
夏の空のような暖かさを持つこと

ああ この安らぎを失いませんように
今わたしを鎮めるこの安らぎを
たとえ 時が 若さを奪っても
歳月が この顔に影を落としても

自分に誠実に すべての人に誠実に
いつまでも健やかに
激情に駆られることなく
沸き立つ意志を抑えられますように

*****

一日があっという間に過ぎることがあります。目の前のことに完全に集中していて、気づくと一日が終わっている。大変な一日だったけど、充実感も感じる。そんなときに、この一行がすっと心に入ってきます。

All day I’ve toiled, but not with pain,
一日じゅう わたしは 苦痛もなく

他人からしたら、大変そうに見えたかもしれないけれど、自分はひたすらに飛んでくる球を打ち返していただけ。それは決して辛いことばかりではないということもあります。

⁠In learning’s golden wine;
学問の金鉱で こつこつと 働いた

コツコツとやるべきことをやって、その中で気づきや学び、イライラや喜びを感じていく。じりじりと前進しながら、自分にとっての黄金の欠片を集めていく。

今日一日がんばった自分は、昨日の自分よりも、何かを新たに得られたかなと思うと、人生は、learning’s gloden mine「学問の金鉱」そのものであると思えます。

‘Tis sweet to wander here at night,
To watch the winter die,
With heart as summer sunshine light
And warm as summer sky.

夜 あたりを彷徨い歩くのは素敵なこと
冬が去りゆくのを見るのも素敵なこと
夏の太陽のような心を胸に
夏の空のような暖かさを持つこと

人生には、冬のようなときもあれば、夏のようなときもあります。目的地にたどり着けるかもわからず彷徨うときもあれば、目的地を定めずに人生を見まわしてみたいと思うときもあります。

一日の中でも、冬の嵐のような瞬間もあれば、夏のように爽やかな瞬間もあります。

駅のベンチにあわてて腰かけて作業をしたり、家族が寝静まってからいそいそと資料を作り始めたり。子どもに向かって声を荒げた自分に対して自己嫌悪に陥ったり、喧嘩したあとに冷めきったご飯を温め直したり。

そんなこんなで一日を終えるとき。明日はもっといい一日にしようと思うとき。そんなときに心に灯る夏の太陽のような暖かさ。

O may I never lose the peace
That lulls me gently now,
Though time should change my youthful face,
And years should shade my brow!

ああ この安らぎを失いませんように
今わたしを鎮めるこの安らぎを
たとえ 時が 若さを奪っても
歳月が この顔に影を落としても

無理してでもがんばれる体力も、肌の艶も張りも、歳月と共に失われていきます。しかし、自分はやるべきことをやったぞ、今日もいい一日だったな、そんな気持ちとともに深く息をつくときの安らぎ。

幾歳月もこつこつと大地と向き合ってきた老農夫のごとく、平穏という収穫を得られるのは、その手や顔に刻まれた皺あってこそ。今日という一日が、この額にまたひとつ皺を刻んだとしても、それはそれでいいのかもしれないと思えてきます。

*****

今回の訳のポイント

この詩は、一日という務めを終えて月明かりに照らされる、そんな安らぎを描いています。しかし、最後のパートで、突然、グッと緊張がたちこめます。

True to myself, and true to all,
May I be healthful still,
And turn away from passion’s call,
And curb my own wild will.

自分に誠実に すべての人に誠実に
いつまでも健やかに
激情に駆られることなく
沸き立つ意志を抑えられますように

人生最大の難問のひとつ、True to myself, and true to all「自分に誠実に すべての人に誠実に」という約束を、最後に自らに課します。

自らを偽ることなく、ありのままの自分でいられたら、どんなに楽だろうか。社会との相克なしに、自分に、ひとに対して誠実でありつづけること。その過程で、熱き意志や思いに駆られることもあるだろうし、心や身体の健康を害することもあるかもしれない。

そんなときに、月の光に自分の一日を照らして、自分なりにこつこつとがんばったと思いたい。そうすると、この詩の言葉が、心に響いてくるのです。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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