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第95回 クリエイティブでありたいと思うときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

ものを書いたり、絵を描いたり、撮影や編集をしたり、デザインをしたり、企画を考えたり、解決策を考えたり、人を導いたり。そんな時に、クリエイティブであることはとても大切です。

正解がひとつではない課題に対して取り組む上で、オリジナルな発想はとても大きな力を持ちます。

そして、こうしたクリエイティビティは、特別なアーティストに備わっているものでなく、誰の中にも眠っていて、それをどう呼び覚ますかが重要です。

そんなことを考えていると、部屋の片隅に立てかけてある銃についての詩を思い出します。その銃を持って、森に狩りに出かけるのですが、、、どうしてそれがクリエイティビティとつながるか。まずは読んでみてください。

*****

My Life had stood – a Loaded Gun
Emily Dickinson

My Life had stood – a Loaded Gun –
In Corners – till a Day
The Owner passed – identified –
And carried Me away –

And now We roam in Sovreign Woods –
And now We hunt the Doe –
And every time I speak for Him
The Mountains straight reply –

And do I smile, such cordial light
Opon the Valley glow –
It is as a Vesuvian face
Had let its pleasure through –

And when at Night – Our good Day done –
I guard My Master’s Head –
’Tis better than the Eider Duck’s
Deep Pillow – to have shared –

To foe of His – I’m deadly foe –
None stir the second time –
On whom I lay a Yellow Eye –
Or an emphatic Thumb –

Though I than He – may longer live
He longer must – than I –
For I have but the power to kill,
Without – the power to die –

*****

エミリー・ディキンソン
あたしの人生は 装填された銃だった

あたしの人生は 装填された銃だった
部屋の片隅にあった ある日
持ち主が通りかかり 見つけた
そしてあたしは連れ去られた

今あたしたちは領主の森をさまよい
雌鹿を追う
あの人に語りかける
山に響くのはそのこだま

あたしは笑顔になる 心からの光
谷に輝く光
ベスビオ山 その山肌が
喜びに輝くような光

夜の帳が下りて思う 実り多き一日だったと
ご主人を守るのがあたしの役目
カモのふかふかの枕に
頭をうずめて一緒に眠るよりもいい

ご主人の敵よ あたしは手強いから
狙った獲物は逃さない
狙いを定めて
引き金を引く それでおしまい

あたしの方が長生きするかもしれない
いや長く生きるのは彼の方だ
なぜって?あたしには殺す力しかない
でも死ぬ力はないから

*****

My Life had stood – a Loaded Gun –
あたしの人生は 装填された銃だった

刺激的な一行からはじまるこの詩。a Loaded Gun「装填された銃」と、The Owner 「その持ち主」がいるということなので、いろいろな考え方ができそうです。

一つには、銃というメタファーの通り、「怒り」のような内に込められた爆発的な強い感情。

Carried away「連れ去られた」のは、物理的に「持ち去られた」ともなりますが、英語としては「心を持っていかれる、心を奪われる」という意味があるので、「怒りに我を忘れる」ということを暗に言っているのかなと思ったりもします。

または、詩人としてのクリエイティビティと考えられるかもしれません、「アイディアが詰まった自分(装填された銃)」と、「それを解き放つインスピレーション(持ち主)」との関係なのかなとも思います。

*****

そして、銃である自分と持ち主は、お互いをパートナーとして、And now We roam in Sovreign Woods -「森に分け入って」行きます。

獲物を狙って引き金を引くと、The Mountains straight reply -「山中にこだまし」、火山として有名ですが、a Vesuvian face「ベスビオ山の山肌」を走る溶岩が、glow「光る」ように感情や創造性が爆発します。

獲物としてのthe Doe「雌鹿」も、the Eider Duck’s Deep Pillow「カモのふかふかの枕」も、弱さや安心の象徴。怒りや創造性は、それらを超越するもの。その鋭敏さはNone stir the second time -「二度目はない=狙った獲物は逃さない」ほどであると。

*****

Though I than He – may longer live
He longer must – than I –
For I have but the power to kill,
Without – the power to die –

あたしの方が長生きするかもしれない
いや長く生きるのは彼の方だ
なぜって?あたしには殺す力しかない
でも死ぬ力はないから

あたしよりあなたの方が長生きするのは、なぜか。自分という存在は無くなっても、作品や人は残っていきます。また、感情や創造性の容器である銃であるあたしは、銃弾が装填されているかのように、渦巻く感情や解き放ちたい創造性が、心の中に眠っています。これは、怒りという激情や、インスピレーションがなければ目覚めることもありません。感情や創造性の爆発なしに、生きているという感覚が得られないとも思えてきます。

*****

今回の訳のポイント

My Life had stood – a Loaded Gun –
あたしの人生は 装填された銃だった

この印象的な一行は、個人的にもずっと心にあったのですが、ある日、それがクリエイティビティとの関係に思えてから、より一層特別な言葉になりました。

狂ったように、インスピレーションに導かれ、脇目もふらず作業に没頭しているとき、心の中のベスビオ山は噴火し、野営地のたき火をじっとみつめるがごとく、自分だけの世界に没入していきます。

’Tis better than the Eider Duck’s
Deep Pillow – to have shared –
カモのふかふかの枕に
頭をうずめて一緒に眠るよりもいい

安心や温もりよりも、今自分の心に見えているものを形にしたいという一心で、一晩中たき火を絶やさずに警戒をすること、射止めるべき獲物に一発必中の狙いを定める心持ち。

極めて繊細な創造の営みを感じさせ、興奮します。

For I have but the power to kill,
Without – the power to die –
なぜって?あたしには殺す力しかない
でも死ぬ力はないから

この最後の箇所は謎めいていますが、エミリー・ディキンソンの生きた19世紀を考えると、人間は自らの命を左右し得ない、人の命は神の手の中にあるという考え方が背景にあるというのも頷けます。

今、人間はさまざまな道具に囲まれ、あらゆることが可能になったかのように暮らしていますが、部屋の片隅に立てかけてある銃のごとく、創造性の炎はまだまだ誰の心にも眠っていて、これからも、昨日はできなかったことを、明日にはできることにしていくのだろうと思えてきます。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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