ENGLISH LEARNING

第94回 心がきれいな人に出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

心がきれいな人は、人や物事について決めつけることなく、ありのままを見ることができる人だなと思うことがあります。

雪原に立って、真っ白な雪を見ていると、混じりっけのない、きれいな心がほしいと思います。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

The Snow Man
Wallace Stevens

One must have a mind of winter
To regard the frost and the boughs
Of the pine-trees crusted with snow;

And have been cold a long time
To behold the junipers shagged with ice,
The spruces rough in the distant glitter

Of the January sun; and not to think
Of any misery in the sound of the wind,
In the sound of a few leaves,

Which is the sound of the land
Full of the same wind
That is blowing in the same bare place
For the listener, who listens in the snow,
And, nothing himself, beholds
Nothing that is not there and the nothing that is.

*****

スノウ・マン
ウォレス・スティーブンス

冬の心をもって
霜を、枝を、見なくてはいけない
雪に埋もれた松の木の枝を、見なくてはいけない

常に冷めた心でいることだ
凍りついたジュニパーを見つめるときは
遠くで煌めくトウヒを見つめるときは

草木が1月の陽の光に煌めくとき 考えてはいけない
吹く風の音に侘びしさを
木々にしがみつく葉の音に侘びしさを

その音はどこかの土地を
同じように吹いてきた風
同じように侘びしい土地を吹いてきた風
雪に耳をそばだてるとき
何者でもなく
ないものを見ることもなく
ないということを知る

*****

詩の冒頭で、a mind of winter「冬の心」を持たなければいけないとあって、それはどんな心だ?と疑問が湧きます。

霜や松の木の枝を、a mind of winter「冬の心」で見るとは、どんなことだろうか。そんなことを考えていると、自然を見つめるときは、cold「冷めた」目を持たなければいけないと言われます。

*****

「冬の心」も「冷めた」目も、「冷たさ」ってあまりポジティブなイメージはないけど、そうやって自然の事物を見るって、この詩、大丈夫かな。。。そう思っていると、冬景色を見て、misery「侘びしさ」を連想してはいけないという言葉も出てきます。

古来から、「冬=侘びしさ」という公式が人の心にはあって、「冬にピューピュー吹く風=侘びしさ」、「葉の落ちた裸の木=侘びしさ」と考えてしまいがちです。しかし、それは人間が勝手にそう思っているだけなのではないかと。「秋は〇〇なものである」というものは、もともとないのではないかと。

*****

人に対しても、「あの人は〇〇な人だから」と、先入観で決めつけてしまうことがあります。こちらが勝手に思っているだけで、本来は、だれもがありのままのまっさらな存在で、nothing himself「何者でもない」のだと。

心のきれいな人は、人や物事に対して先入観を持つことなく、ごくごく自然にありのままを見ることができる人だなと思えます。

世の中は「A型の人は~」だとか「末っ子は~」だとか「日本人は~」などと、すぐにラベルを貼りたがりますが、心のきれいな人はそうではないなと。人を色眼鏡で見ることもなく、物事を飾り立て話すこともなく、等身大で理解する人だなと思えてきます。

*****

物事をありのままに見つめるということは、冬の景色を眺めながら、「冬=侘びしさ!」と、いちいち無理に意味づけしないということになります。

後付けの解釈のような、Nothing that is not there 「本来そこにはないもの」を見ることもなく、ただ目の前の物事のそのままの姿を見つめればいいのだと言えます。

解釈や意味づけをされていない状態、つまり、the nothing that is「ないということ」が分かればそれで十分なのだと。

*****

今回の訳のポイント

タイトルが、この詩の最大のミステリーです。

The Snowmanならば、シンプルに「雪だるま」となりますが、この詩のタイトルはそうではありません。

The Snow Man
スノウ・マン

つまり、「雪のようなひと」「雪の世界のひと」「雪でできたひと」などのようにはっきりはしませんし、説明的な言葉になります。

例えば、bookshelf「本棚」が通常の一般的な名詞ですが、もしThe Book Shelfという詩や展示作品があったら、「本で組み立てられた本棚」や「本のような棚」という奇妙奇天烈な姿を想像するかもしれません。

ウォレス・スティーブンスという詩人は、こうした奇妙奇天烈なイメージを呼び覚ましてくれる天才で、「ぼくは壺をテネシーに置いた」という妙ちくりんな詩も残しています。

*****

わたしたちは、ものごとを認識するにあたって、人生経験や置かれた環境によって、何らかの視座に立つことは避けられません。「冬=侘しさ」という連想も、無意識にしてしまうのが人の性です。

心のきれいな人は、そういったものに目が曇ることなく、透き通った心と目で、人やものごとを見ることができる存在だと思えます。真っ白な雪を、純粋できれいな心と結びつけてロマンチックな気分に浸りたいところですが、この詩のキーワードである、a mind of winter「冬の心」で雪を見なければいけないとするならば、「雪=純白=純粋」などという安易な連想をしているうちは、詩人失格のようですね。

 

【英語力をアップさせたい方!無料カウンセリング実施中】
これまで1700社以上のグローバル企業に通訳・翻訳・英語教育といった語学サービスを提供してきた経験から開発した、1ヶ月の超短期集中ビジネス英語プログラム『One Month Program』
カウンセリングからレッスンまですべてオンラインで行います。
One Month Program

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END