ENGLISH LEARNING

第84回 秋ですねと言われたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

「秋ですね」

木の葉が色づき、空気がひんやりしてきて、陽が早いうちに沈むようになってくると、誰ともなしに「秋ですね」と言い始めます。

そんな時に思い出す詩があります。

*****

Autumn
Amy Rowell

All day I have watched the purple vine leaves
fall into the water.
And now in the moonlight they still fall,
but each leaf is fringed with silver.

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エイミー・ロウエル

昼間はずっと 紫の葡萄の葉が
水面(みなも)へ落ちてゆくのを見ていた
今は月明かり 葉はまだ散ってゆく
でも今は銀の縁取り

*****

この詩はたった4行だけの詩で、何か熱い感情を歌っていたり、深い意味づけがされていたりするわけでもありません。

でも、この詩が、いいなと何となく感じられるのは、シンプルに情景を描いていて、自分なりにイメージができるからですよ。

Autumn「秋」、day「昼間」、leaves「葉」というだけで、色づいた葉が、陽の光に鮮やかな様子が思い浮かびます。

それらの葉が、the water「水面」に落ちていくと言われたとき、イメージするのはどんな水辺でしょうか。

「川」や「海」、「水たまり」や「井戸」かもしれません。

このようなイメージの詩の面白いところは、誰もが何となく共通のものをイメージできるように思えて、実はそれぞれイメージできるものはバラバラであるという点です。

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the moonlight「月明かり」と言われた時に思い浮かぶのは、満月かもしれませんし、三日月かもしれません。

でも、確かに、誰もが自分なりに秋の月を脳内にイメージするわけです。

そして、最後には、月明かりに照らされた葉の縁が、銀色に輝いているという、これまた、脳内で写真のように切り取るイメージは人によって異なるはずです。木立ちとしてイメージするかもしれませんし、葉の一枚をイメージするかもしれません。

こうして、「秋ですね」という時に、それぞれの人が思い描く情景は異なっているのですが、でも確かに、それぞれが「秋」を思い浮かべていることには変わりないのです。

*****

今回の訳のポイント

イメージの詩は、限定的な情景をいかに与えないかということが大事になります。それによって、それぞれが自分のイメージの世界を作り上げることができます。

この詩のポイントは、fall into the water「水面(みなも)へ落ちてゆく」です。

the waterとしかありませんので、どの水面を表しているかは、それぞれが好き勝手に思い浮かべることになります。

「海」や「川」といった自然の水面かもしれませんし、「井戸」や「湯呑茶碗」かもしれません。

そうしていくと、英語で書かれた詩であったとしても、ススキの穂が揺れる秋の夜更けに、縁側に座りながらお茶を飲む。その湯呑に揺れる月の明かりとも思えてくるのです。

イメージの詩、短いのにイメージは無限。恐るべし!

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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