第80回 お墓参りに行ったときに思い出す詩
「また来たよ」
そんな風に、お墓参りすることは結構好きなので、季節構わずお墓参りはします。
それぞれの季節の良さがありますが、特に、秋のお彼岸は、天候も草花の雰囲気もベストだなといつも思います。
少しひんやりした空気の中、花の香り漂う道すがら、こんな詩を思い出します。
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September
Lucy Maud Montgomery
Lo! a ripe sheaf of many golden days
Gleaned by the year in autumn’s harvest ways,
With here and there, blood-tinted as an ember,
Some crimson poppy of a late delight
Atoning in its splendor for the flight
Of summer blooms and joys
This is September.
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九月
ルーシー・モード・モンゴメリー
見よ!黄金の日々の実りは束となり
一年が拾い集めた秋の収穫となる
そこここで残り火のように赤く
遅れて咲く芥子の赤が眩しい
その輝きが償うのは 過ぎ去った夏
その眩しさと華やぎ
そう 今は九月
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Golden「黄金色」に輝く畑。blood-tinted as an ember「残り火のように赤く」眩しい芥子のcrimson「赤い」花。
この色彩だけで、やっぱり秋が好き!と叫びたくなります。
この詩は、日本語の和歌の枕詞のように、秋の収穫にかかる言葉からスタートしていて、草の匂いがして来そうな、夕暮を感じるような、普遍的な秋のイメージに包まれています。
A ripe sheaf「実りの束」と、gleaned「拾い集められた」という言葉だけで、移り変わる季節そのものだけでなく、人の営みも感じられて、ロマンチックな詩の真骨頂ですね。
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とそこに、芥子の赤い花が眩しく咲き乱れることに気がつきます。ember「残り火」というのがいいですよね。
その赤は、blood-tinted「鮮血のよう」に、crimson「深紅色」なので、その鮮やかさは疑いようがなく、splendor「輝き」を放っている。
もちろん、blooms and joys「眩しく華やぐ」のは夏なのですが、それが去った後にも、秋には秋の華やぎがあるということを、改めて感じます。
そんな秋の空気を吸い込みながら、お墓への道を歩いていると、何だかいつもよりも、爽やかで良い自分となって、ご先祖様に挨拶ができそうな気がします。
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今回の訳のポイント
古風でロマンチックな詩の特徴は、堅い名詞を中心とした文構成になっている点です。
Atoning in its splendor for the flight
Of summer blooms and joys
その輝きが償うのは 過ぎ去った夏
その眩しさと華やぎ
この箇所では、flightのひと言で「すばやく去りゆく」という感覚が込められているのですが、それを表しうる「疾過」などの日本語の名詞をあてても、言葉としてのなじみがないとピンときません。
平易な言葉を選ぶことで、単語のもつニュアンスを失いかねないというリスクと常に背中合わせで日本語にするのは、なかなかスリリングです。
ただ、そんなときにいつも思うのは、その場面でふとこぼれる言葉って何だろうか、ということです。
秋の爽やかな空気に包まれながら、お墓への道を歩くときに感じる、素朴な感動を表すのに頭に浮かぶ言葉って何だろうと考えるのです。
カナダ、プリンス・エドワード島に生きたモンゴメリーも、まさか100年後に、日本人が墓地へ向かいながらこの詩を思い出すとは想像もしなかったと思いますが。
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