第77回 熱中できるものが見つかったときに思い出す詩
人それぞれ何か熱中できるものをもっていたりします。
寝食を忘れて没頭してしまうこと。何時間も集中してできること。
人からの評価なども気にならず、ただひたすらに目の前のことに集中できるようなもの。
そんなものが見つかったときに思いだす詩があります。
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At a Dinner Party
Amy Levy
With fruit and flowers the board is decked,
The wine and laughter flow;
I’ll not complain—could one expect
So dull a world to know?
You look across the fruit and flowers,
My glance your glances find.—
It is our secret, only ours,
Since all the world is blind.
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ディナーパーティー
エイミー・レヴィ
花と果物に彩られたテーブル
注がれるワインとさざめく笑い声
仕方ない どんなにつまらなくても
世の中なんてものが
花と果物の向こうに君の瞳
ちらちらとこちらを見る君と視線が合う
わたしたちの秘密だよね わたしたちだけの
だれも知らないのだから
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花に果物、ワインに笑い声。
華やかなディナーパーティーそのものですが、もしそれがつまらなく思えてしまったら。
そんなときに、華やかなものを越えて、自分に真っ直ぐ注がれる視線に気づいたとしたら。
少し目を逸らしても、視線が追いかけてきて、やっぱりまた目が合ってしまう。
どうせ誰も知らないのだから。そんな風に熱い視線を交わすふたり。
いやあ、きっと気づかれてしまうよ、と思ってしまいますが。
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好き同士のふたりが、こそこそイチャイチャしているだけの詩なのですが、自分にはそれ以上のものに思えてしまうんです。
花に果物、ワインに笑い声。
例えば、それらが世の中一般の分かりやすい目標や成果だとして、でもそれとは違う何かが自分の視線を捕まえたとしたら。
他の人には分からないけれど、自分の胸を焦がすような、素敵なもの、大切なものが見つかったとしたら。
まわりの華やぎもざわめきも関係ない。人には理解されないかもしれない。でも、自分の心を捉えて離さない。
そんな風に没頭する人の姿が、この詩を読むと思い浮かんでしまうんです。
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今回の訳のポイント
この詩の最高に面白いところは、a worldとthe worldです。
aは、多様なもののうちの一つであり、皆の統一認識があるものでなく、一方で、theは皆がイメージできるもの。
それを踏まえると、前半のa worldは、皆が認識できるthe world「世界」ではなくて、いろいろな捉え方がある漠然としたa world「世の中」の一種でしかない。
こんな世の中なんて知るほどのものでもない、という突き放した態度と、パーティーにうんざりしている様子を伝えているのが、詩の前半です。
そして、後半のall the worldは「全世界」というよりも、フランス語のtout le monde「みんな」に近いイメージです。
周りの人たちは誰も自分たちに気づいていない。自分たちは秘密を分かち合っているのだというドキドキが伝わってきます。
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しかし、何よりもこの詩が何故か心に残るのは、19世紀後半に生きた作者エイミー・レヴィが、27歳の若さで自死を選んだということです。
詩の放つ煌めきと、そのあまりに短い彼女の人生とのギャップに心をえぐられつつも、「この感情を言葉にしてくれたのか!」と、ただひたすらに詩の世界に引き込んでくれることに興奮したりもするのです。
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