第73回 ここではないどこかへ行きたいときに思い出す詩
ここではないどこか。
それが旅の目的地であれ、仕事であれ、人生であれ、ひとは願望を膨らませてしまうものです。
今の時代はネットの力で時空を超えることができますが、20世紀初頭は蒸気機関車でした。
何の面白みもない田舎の生活。町にひかれた線路。汽車にのってどこかへ行ってしまいたい。
そんな気持ちで、この詩を読んでみてください。
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Travel
Edna St. Vincent Millay
The railroad track is miles away,
And the day is loud with voices speaking,
Yet there isn’t a train goes by all day
But I hear its whistle shrieking.
All night there isn’t a train goes by,
Though the night is still for sleep and dreaming,
But I see its cinders red on the sky,
And hear its engine steaming.
My heart is warm with the friends I make,
And better friends I’ll not be knowing;
Yet there isn’t a train I wouldn’t take,
No matter where it’s going.
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旅
線路は遥か遠く
日中は人々の話声で騒がしく
一日中 来る列車もなく
でもポッポーという汽笛の音が聞こえる
一晩中 来る電車はなく
そもそも夜は眠りと夢のためにある
でも赤い燃えカスが舞うのが見える
そして機関車のシュッシュッという音が聞こえる
心温まるのは 友だちと知り合うこと
もっといい友だちもできるだろうか
列車なら何でもいい
行先はどこでもいい
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タイトルが、Travel「旅」というのが良いですよね。
決して旅の道程を歌っているのでなく、そもそも列車に乗ってもいない。ただひたすらに、汽車に乗ってどこか遠くへ旅立つことを、夢想しているだけではあるのですが。
そもそも線路も近くにはなし。けれども、人々のさざめきを越えて、遠くから汽笛が聞こえる。そんな気がする。
夜は目を閉じて、暗闇の世界で眠り夢を見るものですが、夜空に赤い燃えカスが舞うのを見る。汽車はシュッシュッと音を立てて進んでいく。
人ごみのうるささを越えて響く汽笛や、夜の闇に舞う赤い燃えカス。音や色のイメージが鮮明です。目指す目標や、叶えたい夢があるとき、その姿を具体的にイメージしているかがカギになります。
自分は一体、いつどこで誰と何をどうしているのか。情報を集めて、そこに自分が身を置いたら、どんなことを話して、どんな行動をとるだろうかと考えてみる。
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汽車は来ることはないのですが、イメージだけは完ぺきにできている。
そうやって、今いる場所を離れて、旅に出る。その先で、もっと素晴らしい人たちに出会えるかもしれないと夢想し、どんな汽車であろうとも、どこに向かうのであっても、構わない。
ただただ、今いるところから離れる。それだけを望んでいる。
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わたしたちは日々、昨日までとは違う地点に身を置き、人生という旅を続けます。
そこが意図した場所であるかどうかは関係なく、辿り着いた先で、新しい経験を得ることができる。
列車が来てもいないのに、汽笛が聴こえる気がする。
現在を、不毛な土地だと嘆く前に、そのくらい未来をイメージできているだろうかと、自問自答させられる、そんな詩ですね。
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今回の訳のポイント
この詩では、自分をどこか遠くへ連れ去ってくれる手段、それが汽車です。
音や色などの五感に訴える言葉によって、汽車のイメージが喚起されます。
この詩の中で、一番グッとくるのは、人ごみの騒がしさを越えて汽笛や機関車の音が聞えるという箇所です。
今自分を留め置いている身の回りの人々があれこれ言う言葉も、自分が夢見るもっと広い世界へ誘ってくれる汽車の音、shrieking「ポッポー」やsteaming「シューシュー」には敵いません。
どこに行き着くかはやってみないと分からない。でも、こういう風にしてみようというイメージがあることで、目標までの距離も人の言うことも、気にならなくなります。
飾り気のない詩ですが、そんな勇気をくれる気がします。
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