第68回 想像力万歳!と叫びたいときに思い出す詩
「やってみなければ分からない」
頭の中で考えてばかりいないで、まずは自分でやってみなさい。そう言われることがあります。
私自身、やってみようと思ったことは、ずいぶんと挑戦して、さまざまな体験をしてきました。
しかし、心のどこかでは、その真逆の考えもずっと持っています。
想像の力は偉大だ。実際に行動することがすべてではない。そんなことを考えるときに思い出す詩があります。
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I never saw a moor
Emily Dickinson
I never saw a moor,
I never saw the sea;
Yet now I know how the heather looks,
And what a wave must be.
I never spoke with God,
Nor visited in Heaven;
Yet certain am I of the spot
As if the chart were given.
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荒野を見たことはない
エミリー・ディキンソン
ヒースの荒野を見たことも
海を見たこともないけれど
でも ヒースがどんなものか
波がどんなものか知っている
神様と話したことも
天国に行ったこともないけれど
その場所は分かってる
地図を渡されたみたいに
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実物を見たことがなくても、自分の手と足で触れたことがなくても、想像の力だけで、ありありと思い浮かべることができる。
たとえ、部屋の片隅でものを書いているときであっても、荒野や海をイメージできる。しかし、ディキンソンの想像力は、それにとどまりません。
天国のようなものだって、同じように、イメージができている。
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「やってみなければ分からない」というお題目を信奉する私ですが、同時に、「やってみたところでどれほどのことを自分は知りうるのだろうか」という疑問を感じたりもします。
例えば、「インドに行ってみたい」と思っているとして、そんな自分の知識やイメージや経験は、実際にインドに行ったことがある人には負けるかもしれません。
しかし、その人が見て来たインドは、どこまでほんとうのインドを捉えているでしょうか。
同じように、日本人だからと言って、日本のすべてを知っているわけではありません。自分が暮らし、体験している日本は、ほんの一部にすぎません。
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そう考えてみると、荒野も海も天国も、すべて同じように、人それぞれ、自分にとっての真実でしかないのかなと思ったりします。
でもそうやって、人間という動物は情報や経験の断片を組み合わせて、イメージの世界を作り上げている。それが想像力で、人間を人間たらしめているものの一つだなと感動します。
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今回の訳のポイント
この詩の最終行、As if the chart were given. 「地図を渡されてたみたいに」の中の、the chartという箇所は、版によっては、the Checks「道標」となっています。
自分が最初に触れた版は、the chart「地図」を採用していて、慣れ親しんできました。
この行が印象深いのは、Yet certain am I of the spot「その場所は分かっている」と言っているように、天国がどこにあって、どう行けばいいのか分かると言っているからです。
荒野や海は、実際に行って見た人は大勢います。しかし、天国はどうでしょうか。行って見てきた人はいません。
誰も見たことがないものを見る力。それが想像力で、それを言葉にしたときに、詩が生まれるのだなと。そう思うと、「想像力万歳!」と叫びたくなります。
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