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第61回 身近な人を傷つけてしまったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

詩の楽しみ方は、大きく分けて2つあります。

色々な解釈を楽しむ詩がある一方で、もう充分に理解していることを、さらに一層深く心に突き刺してくれる詩があります。

赤の他人には愛想よくできるのに、身近で大切な人を、驚くほど無神経に、傷つけてしまった。

そんなときに、苦しむ心をさらにズキズキさせるような詩があります。

しかも、その冒頭は「地球は丸いと人は言うけれど 四角いと思うことがよくあるの」!

一体、どんな詩なのか。まずは読んでみてください。

*****

Life’s Scars
Ella Wheeler Wilcox

They say the world is round, and yet
I often think it square,
So many little hurts we get
From corners here and there.
But one great truth in life I’ve found,
While journeying to the West-
The only folks who really wound
Are those we love the best.

The man you thoroughly despise
Can rouse your wrath, ‘tis true;
Annoyance in your heart will rise
At things mere strangers do;
But those are only passing ills;
This rule all lives will prove;
The rankling wound which aches and thrills
Is dealt by hands we love.

The choicest garb, the sweetest grace,
Are oft to strangers shown;
The careless mien, the frowning face,
Are given to our own.
We flatter those we scarcely know,
We please the fleeting guest,
And deal full many a thoughtless blow
To those who love us best.

Love does not grow on every tree,
Nor true hearts yearly bloom.
Alas for those who only see
This cut across a tomb!
But, soon or late, the fact grows plain
To all through sorrow’s test:
The only folks who give us pain
Are those we love the best.

*****

傷痕
エラ・ウィーラー・ウィルコクス

地球は丸いと人は言うけれど
四角いと思うことがよくあるの
あれやこれやの小さな傷は
あの角やこの角にぶつけたからなんだ
でも人生のある偉大な真実に気づいたの
西へ西へと旅してみたけど
この心を苦しめるのはだれかって
一番大切にしているはずの人たちなんだ

まったく尊敬もできないような人に
腹わたが煮えくり返ることもある
心に浮かぶそのイライラは
赤の他人に感じるもの
それはすぐに治る風邪のようなもの
みんなしみじみ分かっているでしょ
ズキズキいつまでも痛む傷は
愛する人の手で刻まれる

優しく上品に
それは他人だからできる
不機嫌に怒ったり
それは身内に向かってしまう
よく知らない人ならお世辞も言える
お客さんなら喜ばせることもできる
あきれるほど心無い攻撃は
一番大切してくれる人に向かってしまう

愛は すべての木に育つわけじゃない
真心は 黙っていても毎年花を咲かせるわけじゃない
愛の痛みがわかるのは
愛が死ぬとき
いずれにしたって事実ははっきりとわかる
悲しみという試練を通じてわかる
この心を苦しめるのは
大好きな人たちなんだ

*****

「もう分かったから、もう言わないで」と、言いたくなってしまうほどに、畳みかける「身近な人ほど傷つけてしまうことってあるよね」という人生の真理。

しかし、この詩には、グサグサと刺さる言葉がたくさんありますね。

They say the world is round, and yet
I often think it square,
So many little hurts we get
From corners here and there.

地球は丸いと人は言うけれど
四角いと思うことがよくあるの
あれやこれやの小さな傷は
あの角やこの角にぶつけたからなんだ

 

わたしたちも、ときに、丸い地球を四角くしてしまうときがあります。

そっとしておけば丸く収まったものを、どうしても許せなかったり、どうしても言っておきたいことがあったり、そして角が立ってしまう。

*****

The choicest garb, the sweetest grace,
Are oft to strangers shown;

優しく上品に
それは他人だからできる

 

家族や友人など身近な人は、どんなことも話せるからとか、大切な人だからこそ少々耳に痛いことでも伝えてあげなければとか。

悪気があったわけではなくて、そういう神聖な気持ちだったのに。

でも、それを他人にするように、かわいい包み紙にくるむこともせずに、分かり合う同士だからと、むき出しの心をぶつけるわけですが、それは容赦のない打撃だったりするわけです。

*****

The only folks who give us pain
Are those we love the best.

この心を苦しめるのは
大好きな人たちなんだ

 

赤の他人であれば、一時の風邪のようにやり過ごすこともできる。しかし、本当に心から大切に思う人だからこそ、その人の苦しみが、自分の苦しみにもなる。

そんな人生の真理を、こんなにも繰り返し言われると、止まる涙も止まりませんよね。

*****

今回の訳のポイント

エラ・ウィーラー・ウィルコクスは、「孤独」の詩など、グッと心をつかむフレーズが特徴的です。

この詩の中で、もっともハッとさせられるのは、この箇所ではないでしょうか。

Love does not grow on every tree,
Nor true hearts yearly bloom.

愛は すべての木に育つわけじゃない
真心は 黙っていても毎年花を咲かせるわけじゃない

 

愛情は、Artであると言われることがあります。このArtは「芸術」でなく、「技術」という意味。

春になれば、放っておいても花を咲かせるものではない。それと同じように、愛情も勝手に身につくものではなくて、意識的に訓練して表現できるようにしなくてはいけない。

何度も転んで膝小僧をすりむいて、やっと自転車の乗り方を学ぶ。手にマメができるほどに練習して、やっと逆上がりができるようになる。

それと同じように、愛することも、悲しみと痛みを経験して学ぶ。そんなことを考えただけで、心がヒリヒリしてきます。

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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