第54回 ストレスMAXなときに思い出す詩
ストレスが溜まりに溜まってどうしようもない時があります。
そんな時は、ストレスの原因となっているものから離れてみようだとか、自分を客観視してみようだとか、さまざまな処方箋があるのですが、わたしにはお気に入りの詩のお薬があります。
「わたしは苦悶の表情が好き」という、なかなか挑発的な、この詩を読んでみてください。
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I like a look of Agony,
Emily Dickinson
I like a look of Agony,
Because I know it’s true—
Men do not sham Convulsion,
Nor simulate, a Throe—
The Eyes glaze once—and that is Death—
Impossible to feign
The Beads upon the Forehead
By homely Anguish strung.
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わたしは苦悶の表情が好き
エミリー・ディキンソン
わたしは苦悶の表情が好き、
だってそれは真実だからー
ひとはうその痙攣はしないし、
激痛を装うこともないからー
目がかすんでしまったらーそれは死ー
にせものはすぐにわかる
額に浮かんだ汗の滴
飾ることのできない苦悶が連なっている
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苦悶は苦悶でも、「死」の苦悶をここでは歌っています。
そんな苦悶が、なぜtruth「真実」なのかというと、死に偽物はないからだと言います。
苦しみの果てに、人が命を終えること、この厳然たる真実には解釈の余地もありません。
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さて、こんな死の苦しみを歌った詩を読んで、どうやってストレスを解消するのだという疑問の声が聞こえてきそうです。
ストレスって、どうして感じるのかなと考えると、ひとつには、自分がこうしたい・こうありたいと願うことを押しつぶすような要因があることなのかなと思います。
それが理不尽なものであれ、仕方のないことであれ、自分の思うものとのギャップがあると、苦しくなる。
どんなにその場を取り繕っても、自分の気持ちをぐっと抑え込んだとしても、やはり悶々とした自分がいる。
そんなわけで、ストレスは、自分の思いの強さに比例するのではないかと思ったりします。
死の苦痛に偽物がないように、自分の思いにも、うそ偽りはないのだ。
そう思うと、この詩のメッセージが、スタジアムを揺るがす歓喜のウェーブのように、一気に押し寄せてきます。
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The Beads upon the Forehead「額に浮かんだ汗の滴」は、自分が真摯に取り組んでいる目の前のことに流す汗。
そこに、うその汗はありません。
状況は辛く苦しいけれども、それを味わっている自分が流す汗は、本物の心の汗。
そう思えたら、どんなに心がボロボロでも、誇らしい気持ちが湧いてきます。
だからと言って、「苦悶の表情が好き」とまで言ってしまうのかと。
そんな言葉選びが、この詩のやさしさに思えます。
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今回の訳のポイント
この詩は、キーワードとなる「にせもの」を様々な言葉で言い換えています。
shamも、simulateも、feignも、すべて「偽る・装う」という意味にはなりますが、feign deathは動物や昆虫の「死んだふり」というフレーズですね。
そういった、「偽り」の対極に、homely「混じりけのない、飾り気のない」、素朴な苦悶が挙げられています。
考えただけで頭が痛くなるような、胸が苦しくなるような、ストレスに押しつぶされそうな瞬間は、次々とやってきます。
でも、そんな汗と苦痛に悶えるとき、頭も心もどうしようもなく苦しいのに、ふと「わたしは苦悶の表情が好き」というフレーズが頭によぎって、思わず笑ってしまいそうになります。
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