第52回 春が来て心がうきうきするときに思い出す詩
春。
心がうきうきするのは何故でしょう。
頭も心も少し上を向いて歩きたくなるのは、暖かい空気に誘われて、花も緑も同じようにグッと背を伸ばすからかもしれません。
春のうきうきと草花のつながりを、とっても美しく描いた詩があって、いつもそれを思い出します。
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Alchemy
Sara Teasdale
I lift my heart as spring lifts up
A yellow daisy to the rain;
My heart will be a lovely cup
Altho’ it holds but pain.
For I shall learn from flower and leaf
That color every drop they hold,
To change the lifeless wine of grief
To living gold.
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錬金術
サラ・ティーズデイル
わたしは心を躍らせる
春が来るから
春が黄色いデイジーを空に伸ばして
雨に濡らすから
わたしの心は小さなコップ
悲しみしか入らないの
花に葉っぱに 教えてもらおう
花に葉っぱに
光る滴が色づくように
生きる力もなかった
わたしの悲しみのワインも
よみがえる 金色の輝き
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「錬金術」というタイトルがいいですよね。ある別の物質を黄金に変えることが出来る魔法のような術。
春にどんな魔法があるのかが歌われていますが、どの行も、予想を裏切る言葉運びで、最高に美しい春の詩と個人的には考えています。
まず、spring lifts up/A yellow daisy to the rain「春が黄色いデイジーを空に伸ばして雨に濡らす」が美しすぎます!
太陽の光を浴びるために伸ばすのでなく、雨に濡らすために、その花や葉を雨粒にさらすために伸ばさせるのだと。
雨粒から連想させるかのように、自分の心は小さなコップで、悲しみの涙しか入らない、とさみしく歌われています。
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そんなもの悲しさに、涙がこぼれそうになると、次の行でさらに美しい展開が!
雨に濡れるためにデイジーはその背を伸ばしますが、雨粒は、花びらや葉っぱに乗ると、その色を映しこんで色を変えます。
鮮やかな黄色いデイジーの花も、太陽の光を浴びるのでなく、雨に濡れないと、花の色の煌めきは生まれません。
同じように、悲しみを貯めこんだ心のコップも、花びらや葉っぱの上で滴が色づくように、キラキラと輝くはず。
春だから、顔を上げて思い切り雨に濡れてみよう。涙に濡れてみよう。そうすると、悲しみもキラキラの輝きを纏うから。
そう考えると、庭先で花や葉に乗った雨粒の一つ一つが愛おしく思えてきます!
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今回の訳のポイント
Alchemy「錬金術」は、古代から、ある物質を金に変えるための媒介、そのための物質を求める探究の営みでもありました。
また、ユングをはじめとして、物質変化のみならず、個人の変化など心理学的な側面からも論じられてきました。
この詩でも、悲しみだって、輝く黄金に変わるのだという意味で、Alchemy「錬金術」という言葉が選ばれています。
そして、こうした心の持ちようの変化は、花や葉っぱに光る雨粒から教わると歌います。
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詩全体を、ちょっぴり悲しいけど明るさを失わない雰囲気にしているのは、冒頭の力が大きいように思います。
I lift my heart「わたしはわたしの心を躍らせる」ので、受身的にうきうきさせられるのではなく、自ら心を躍らせるところからスタートします。
花びらや葉っぱがあって、雨粒は色づき、美しく輝く。であれば、心にだって雨を降らせてもいい。
そんな風に自ら思えたら、春はもう自分のものですね!
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